あなたへ
美味しいお菓子をひとりで食べながら、胸の奥がギュッてして。
楽しかったなって、
思わず小さな声で呟いてしまうのは、これで何度目だろう。
これは、あの子が買って来てくれたお菓子を、
ひとりで食べる時の私の小さな声なのです。
あの子が帰省する時にね、
いつもお菓子を買って来てくれるでしょう?
此処に帰って来たら、
先ずは、あなたにお菓子をお供えして、手を合わせて。
あの子の帰省は、いつでもそんなふうに始まりますが、
あの子が買って来てくれたお菓子をひとりで食べる時にはね、
胸の奥がギュッてなって、寂しい気持ちになってしまうんだよ。
つい数日前までは、此処に、
あの子の笑い声が聞こえていたのになってさ。
あの子が買って来てくれたお菓子を開けるのは、あの子と一緒に。
2人で談笑しながらお菓子を食べるのも、
あの子の帰省中の私たちのお決まりの時間ですが、
毎度、幾つかのお菓子が残って。
あの子が帰った後で、ひとりでお菓子を食べるのもまた、
私のお決まりの時間なのです。
甘くて、とても美味しくて、
それなのに、胸の奥がギュッと締め付けられて。
此処に確かに流れていた筈のあの子との時間を反芻してみれば、
自然と笑みが溢れながらも、また胸の奥が締め付けられて。
ねぇ、あなた。
私たちの元に生まれて来てくれたあの子は、
私たちに、たくさんの初めての気持ちを教えてくれましたね。
此処から元気に巣立って行ったあの子はね、
甘くて美味しいお菓子に、こんな味があることも教えてくれましたよ。
甘くて、美味しくて、なんだか胸の奥が痛くて。
これは、あの子だけが教えてくれることの出来る、
特別なお菓子の味だと言えるのでしょう。
今日は、今回帰省したあの子が買って来てくれたお菓子の、
最後のひとつをいただきました。
美味しいお菓子を食べながら、
此処から巣立ったあの子が教えてくれたお菓子の味を、
大切に、あなたの分まで味わい尽くして。
数年前には知らなかった気持ちをまたひとつ、
この胸の中へと大切に集めました。
1ページ目はこちらより↓↓