あなたへ
人は、死んだら何処に行くと思う?
これは、彼女の言葉です。
彼女、とは、早い流れの中で出会った海外出身のあの彼女のことです。
私との共通点を持っていた彼女には、
実はもうひとつ、大きな共通点がありました。
彼女もまた、ご主人を亡くされていたのです。
それも、私があなたを亡くした頃と、同じくらいの時期に。
長く勤めた会社を去ってからの私には、本当にたくさんの出会いが訪れました。
私と年代が変わらない方との出会いもたくさんありましたが、
同年代であるにも関わらず、配偶者との死別を経験している方と出会ったのは、
彼女が初めてのことでした。
そんな彼女と一度だけ、多くの言葉を交わす機会があったのは、
彼女と2人だけで作業をした日のことでした。
互いの趣味の話や、彼女の故郷の話。
あの日の私たちは、様々な雑談をしながら、
互いに、同じくらいの時期に配偶者を亡くしたことを知ったのでした。
その時にね、彼女に聞かれたのです。
人は、死んだら何処に行くと思う?って。
見えないけれど、本当はいつも側にいるのかも知れないと、
一言だけ答えた私に、彼女は言いました。
それじゃ駄目よ
だってそれじゃ、ゆっくり休めないじゃないのって。
あの夏からの私がそうであるように、
彼女もまた、彼女のやり方で、その痛みと向き合い続けて、
自分だけの答えを見つけ、
そこに感じる気持ちも咀嚼し続けて来たのでしょう。
あの日の私は、私とはまた違う考え方を持つ彼女の言葉を、
ゆっくりと反芻しながら、
私がそうであるように、
彼女には、彼女にしか分からない痛みがあることを感じながら、
彼女の内側にある柔らかで繊細なのもに触れぬよう、
静かに合図を打つと、口をつぐんだのでした。
あの時の彼女は、どんなことを考えていたのだろう。
僅かな沈黙の後、私たちは、互いの内側には決して触れぬように、
互いの大切な人が、向こう側で、友達になっていたらいいねと、
こんな言葉で、そのことに関する話を締め括ったのでした。
あの日の彼女は、ある側面から見つめた私の成長が、
どれ程のものであるのかを教えてくれたようにも感じました。
私は漸く、平然を装いながら、
あなたと死別していることを、
人に話すことが出来る私へと成長することが出来ましたが、
それについてを深く掘り下げた言葉を口に出すには、
まだ足りない何かがあるのかも知れないと、
あの日の私は、こんなふうにも感じていました。
もしも私がもう少し、成長することが出来ていたのなら、
あの日の私は、彼女とのどんな時間を持つことが出来たのだろうかと、
時々には、あの日の彼女の言葉を、
そして、あの時に自分の内側に感じたもの、込み上げた痛みを反芻しながら、
あの時間を振り返ってみるのです。
人は、死んだら何処に行くと思う?
答えの出ない答えを探しながら、
私たちは、何を思い描き、何を感じることが出来たのだろうって。
彼女とのお別れの日。
彼女は私を抱き締めると、
また会えるといいねって、こんな言葉を掛けてくれました。
もしもいつかまた、何処かで彼女と出会うことが出来たのなら、
あの頃よりも、自分の成長を感じられるような話が出来たら良いなって、
あの頃の時間を反芻する度に、私はこんな気持ちで締め括ってみるのです。
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