拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

私にとっての祖母

あなたへ

 

携帯電話のアプリを開くと、私の目に飛び込んで来たのは、

ばぁば、という文字でした。

 

特に珍しい言葉なわけではないけれど、

あの日の私にとってのそれは、きっと何かが違ったのでしょう。

 

その文字を見つめた私の中へと、不意に蘇ったのは、

祖母の言葉でした。

 

よく来たね

ばぁばですよ

 

これは、まだ幼かったあの子との初対面での、

祖母からあの子への自己紹介でした。

 

ねぇ、あなたは覚えていますか。

あれは、あの子が生まれてから初めて、祖母の家に行った日のことでした。

 

あの頃のあの子は、目に映るもの全てに興味津々で、

何にでも手を伸ばすから、片時も目が離せない時期でした。

 

これは駄目

これも駄目って、

駄目ばかりを繰り返す術しか持たなかった私たちだったけれど、

あの日の祖母は、

様々なものに興味を持ち手を伸ばすあの子を笑顔で見つめながら、

良い子だね

良い子だねって、あの子をたくさん褒めてくれましたっけ。

 

あの頃の私は、あの子の成長について行くだけで精一杯だったけれど、

祖母があの子にくれた良い子だねという言葉は、

なんだか私の中の張り詰めたものを、少しだけ緩めてくれたような気がしたのでした。

 

写真付きの年賀状を送る以外に、

あの子の成長を知らせる機会がないままに、

次にあの子を連れて祖母に会いに行くことが出来たのは、

あなたを見送ってからのことでした。

 

丁度、私の身長を超えたばかりだったあの子を見上げると、

やはり笑顔で、立派になったとあの子を褒めてくれました。

 

そうしてその笑顔を、あの子の隣に並んだ私へと向けると、

寂しくないねと一言だけ、

「そのことについて」の言葉を掛けてくれたのでした。

 

最大の配慮が隠されたその一言は、私の傷に決して触れないようにと、

祖母の中で慎重に厳選された言葉であったのでしょう。

 

あの日の祖母がくれた言葉が、

決して私を傷付けずに、スッと寄り添うものであったから、

あの時の私は、

祖母の言葉に、笑顔で頷くことが出来たのだと思います。

 

あの日の祖母は、私の笑顔を確認すると、

より一層の笑顔を返してくれたのでした。

 

言葉というのは、本当に不思議なものです。

 

さして珍しい言葉ではなくとも、

自分にとっての何かのタイミングが合った時、

唯一の形を持つ言葉へと変化して、

心を強く揺り動かす力をも持っているのかも知れません。

 

ばぁは、という文字を見つめた私の中へと不意に蘇った記憶は、

次の記憶を呼び覚まし、

改めて、祖母が私にとって、

どんな人であったのか、

何をくれた人であったのかを、

ゆっくりと振り返るきっかけをくれました。

 

記憶の中で笑う祖母を見つめれば、

なんだか、胸の奥がとても温かで、

泣きたくなるような、そんな気持ちがしました。

 

祖母は、あの頃のように、

そちら側でも変わらずに、笑顔でいてくれているでしょうか。

 

 

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