あなたへ
何の前触れもなく突然に、
家の中に現れたGと立派に戦い抜いたあの夜からの私には、
異変が起こるようになりました。
視界の端に映る黒色に怯えるようになってしまったのです。
そう。例えば、テレビのリモコンなんかが視界の端に映り込んだ時や、
何かの影が視界の端に映り込んだ時。
その黒色に驚いて、私は飛び上がりながら、その黒色へと焦点を当てるのです。
そうして、その黒色の正体がG以外であることに安堵してから、
私はまた視線を元に戻すのです。
あの夜からの私は、もう何度くらい、視界の端の黒色に驚いて飛び上がっただろう。
洋服の模様、ノート、コンセント。
これまで意識することはありませんでしたが、
この家の中には、黒色がたくさん存在しています。
何度でもやって来るその瞬間に、
なんだか段々と、疲れて来てもしまいましたが、
あれだけスムーズな流れの中で、戦いに挑むことが出来た筈なのに、
私はこの状態なのだとも、考えさせられます。
きっと、もっと苦戦した戦いであったのなら、
私は、毎晩のように悪夢にうなされていたのかも知れません。
きっと、あなたの力により、私に残るトラウマは、
最小限に抑えられているのでしょう。
あの時は、助けてくれてありがとう。
あの出来過ぎた流れを思い出せば、
何度でもあなたへの感謝の気持ちを呟きながらも、
戦わなくても良いように、
家の中に入って来ること自体を阻止することは出来なかったの?と、
ふと、こんなことを考えてしまった私は、我儘なのでしょうか。
だって、今のあなたの力があればきっと、
そのような状況だって作れた筈なのです。
え?もしかして、わざと?わざとなの?
不意にこんな視点を持ってしまったのは、やはり、あの夢がきっかけでした。
あなたのことを考えるというあの夢から目が覚めた私は、
あなたGについてを真剣に考え、そして、私なりに結論を出しましたが、
あの夜のGの出現は、実は、
その結論に対するあなたからの問い掛けだったのではないかと、
こんな視点を見つけてしまったのです。
本当にこの姿の俺を受け入れられるの?って。
突然、目の前に現れたその存在に飛び上がった私の姿と、
その後、自室に篭り、盛大に弱音を撒き散らした私を見て、
あなたは、こっそりと笑っていたのではないかと、
私の妄想は、更に膨らんで行きました。
ほらね、Gは無理でしょう?
なんて、私には聞こえない声で、語り掛けながら。
あの夜以来、私は黒色が視界の端に映り込む度に、
何度でも飛び上がっては、あの夜を思い返します。
視界の端に映り込む黒色に飛び上がりながら、
やがて新たな視点をひとつ見つけてみれば、
実は、必然的に、あの状態が作り出されていたのではないかとも思えて来ました。
どんな姿のあなたであっても、
もし出来れば、あなたと一緒にこの人生を歩みたいと考える私の目の前で、
相変わらずに、分かりやすく出来過ぎた展開を繰り広げながら、
いつでも側にいるから、ひとりで歩んでごらんと、
実はこんなあなたからのメッセージが込められた夜でもあったのかも知れないなって。
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