拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

コトバ -夏の音- 2025

今年もまた夏が来たよ

 

空を見上げて小さく呟けば

私の中へと鮮明に蘇るのは

夏にいた彼の記憶

 

彼と出会った夏

 

彼と出会ってから

2番目の夏

3番目の夏

 

こうして夏の音を聴きながら

そこにいる彼を見つめるのは

これで何度目になるだろう

 

そこで笑う彼に笑顔を向けて

更に歩を進めてみる

 

彼と出会ってから

4番目の夏

5番目の夏

6番目の夏

7番目の夏

8番目の夏

 

記憶の中をゆっくりと歩くように

彼がいた夏を辿ってみれば

やがて聞こえて来たのはあの子の声だ

 

プール教室はパパがいい

 

そう

これは小学生だったあの子の声だ

 

家族3人で頻繁にプールへ出掛けるようになったのは

いつからだっただろう

 

あの子の好きなキャラクターの浮き輪を使って

楽しく遊ぶというやり方から

やがて彼は

あの子に泳ぎ方を教えてくれるようになって行った

 

そんなある夏の日

 

あの子と同じくらいの年齢の子を持つ友人から

子供用のプール教室に誘われて

それも良いかも知れないと

あの子に話をしてみた日にあの子が言ったんだ

 

プール教室はパパが良い と

 

これは

パパ先生のプール教室で学びたい

故に他のプール教室へは通いたくないという

あの子の意思表示

 

そうして我が家では

あの子専用の

パパのプール教室が開講されたのだ

 

こっそりと水遊びが好きな私は

実はこの

パパのプール教室の日が楽しみで仕方がなかった

 

私は泳ぎは得意ではないけれど

水の中を歩くのがとても楽しかった

 

パパのプール教室を静かに眺めながら

2人の邪魔をしないように水中をウロつくのが

あの頃の私の遊び方となっていた

 

浮ければ泳げるようになるからね

 

彼の教え方は

いつでもシンプルでとても分かりやすい

 

私は彼のそんなところをとても尊敬していたんだ

 

パパ先生によるプール教室のお陰で

あの子はどんどん泳ぎ方が上手になった

 

ねぇあなた

今思えばさ

あの頃のあの子の意思表示は

習い事へ行くよりもパパと一緒にいたい

という意思表示だったのかも知れないね

 

水面に上手に浮いて

どこまでも進んで行くあの子を

愛おしそうに見つめる彼に小さく声を掛ければ

不意にこちらを向いて悪戯顔で私に水を飛ばして来た

 

だから私も彼に水を飛ばし返して

 

やがてそこにあの子が加わって

3人で水の飛ばし合いが始まった

 

そうだった

彼と私は時々子供だった

 

懸命に大人の顔をして暮らしていたけれど

あの子の側にいる時はこうして時々

子供3人組だったんだ

 

楽しいね

 

そっと呟く筈だったのに

思っていたよりも大きな声が出てしまったのは

いつの間にか私が2人の標的となって

彼とあの子からの水飛沫が飛んで来たからだ

 

思わず私は2人から逃げながらも

笑顔で「やめて」を繰り返せば

 

本当は辞めなくても良い私の「やめて」を掻き消すように

夏の音は鳴り響き

私は笑顔のままで

いつの間にか閉じていた目を開いた

 

あなたを見送ってから

11番目の夏にいるあの子も

相変わらずによく笑う良い子だよ

 

彼がいない夏を見つめながら

小さく呟いた筈の声が

やはり思ったよりも

大きな声となってしまったのは

子供3人組のいつかの夏が

あまりにも楽しかったからなのかも知れない

 

また来ようね

 

いつかの夏に置いたままの今度の約束は

私がちゃんと覚えておくからさ

 

きっといつか

また来よう

 

 

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