今年もまた夏が来たよ
空を見上げて小さく呟けば
私の中へと鮮明に蘇るのは
夏にいた彼の記憶
彼と出会った夏
彼と出会ってから
2番目の夏
3番目の夏
こうして夏の音を聴きながら
そこにいる彼を見つめるのは
これで何度目になるだろう
そこで笑う彼に笑顔を向けて
更に歩を進めてみる
彼と出会ってから
4番目の夏
5番目の夏
6番目の夏
7番目の夏
8番目の夏
・
・
・
記憶の中をゆっくりと歩くように
彼がいた夏を辿ってみれば
やがて聞こえて来たのはあの子の声だ
プール教室はパパがいい
そう
これは小学生だったあの子の声だ
家族3人で頻繁にプールへ出掛けるようになったのは
いつからだっただろう
あの子の好きなキャラクターの浮き輪を使って
楽しく遊ぶというやり方から
やがて彼は
あの子に泳ぎ方を教えてくれるようになって行った
そんなある夏の日
あの子と同じくらいの年齢の子を持つ友人から
子供用のプール教室に誘われて
それも良いかも知れないと
あの子に話をしてみた日にあの子が言ったんだ
プール教室はパパが良い と
これは
パパ先生のプール教室で学びたい
故に他のプール教室へは通いたくないという
あの子の意思表示
そうして我が家では
あの子専用の
パパのプール教室が開講されたのだ
こっそりと水遊びが好きな私は
実はこの
パパのプール教室の日が楽しみで仕方がなかった
私は泳ぎは得意ではないけれど
水の中を歩くのがとても楽しかった
パパのプール教室を静かに眺めながら
2人の邪魔をしないように水中をウロつくのが
あの頃の私の遊び方となっていた
浮ければ泳げるようになるからね
彼の教え方は
いつでもシンプルでとても分かりやすい
私は彼のそんなところをとても尊敬していたんだ
パパ先生によるプール教室のお陰で
あの子はどんどん泳ぎ方が上手になった
ねぇあなた
今思えばさ
あの頃のあの子の意思表示は
習い事へ行くよりもパパと一緒にいたい
という意思表示だったのかも知れないね
水面に上手に浮いて
どこまでも進んで行くあの子を
愛おしそうに見つめる彼に小さく声を掛ければ
不意にこちらを向いて悪戯顔で私に水を飛ばして来た
だから私も彼に水を飛ばし返して
やがてそこにあの子が加わって
3人で水の飛ばし合いが始まった
そうだった
彼と私は時々子供だった
懸命に大人の顔をして暮らしていたけれど
あの子の側にいる時はこうして時々
子供3人組だったんだ
楽しいね
そっと呟く筈だったのに
思っていたよりも大きな声が出てしまったのは
いつの間にか私が2人の標的となって
彼とあの子からの水飛沫が飛んで来たからだ
思わず私は2人から逃げながらも
笑顔で「やめて」を繰り返せば
本当は辞めなくても良い私の「やめて」を掻き消すように
夏の音は鳴り響き
私は笑顔のままで
いつの間にか閉じていた目を開いた
あなたを見送ってから
11番目の夏にいるあの子も
相変わらずによく笑う良い子だよ
彼がいない夏を見つめながら
小さく呟いた筈の声が
やはり思ったよりも
大きな声となってしまったのは
子供3人組のいつかの夏が
あまりにも楽しかったからなのかも知れない
また来ようね
いつかの夏に置いたままの今度の約束は
私がちゃんと覚えておくからさ
きっといつか
また来よう
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