拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

私がどうしても欲しかったもの

あなたへ

 

あっ!アレ欲しい!

 

声が漏れ出そうになって、思わず口を強く結んだのは、

行き慣れたお店でのことでした。

 

1階がスーパー。2階には、雑貨や衣服、そして、

ゲームセンターなんかが入っている作りになっているあのお店は、

家族3人での思い出が、たくさん詰まっている場所のうちのひとつです。

 

あの頃から変わらずに、買い物へ行く頻度が最も高いままであるのは、

やはり、品揃えが良く、

欲しいものがなんでも揃うお店だからなのでしょう。

 

2階での買い物を済ませると、いつもなら素通りである筈なのに、

不意に視界に入ったゲームセンターの景品が目に留まり、

一瞬、立ち止まってしまったのは、

ガラスケースの向こう側にあったものが、

私が好きなキャラクターのぬいぐるみだったからでした。

 

漏れ出そうになった声を抑えたままで、遠目からそれを見つめてみれば、

不意に蘇ったのは、いつかの私の声でした。

 

ねぇ、あなた

アレ取って って。

 

そう。これは、あの頃の私が、此処であなたに掛けていた声でした。

 

思えば、あの子がまだ幼かった頃は、買い物だけでなく、

遊ぶという目的で、店へと足を運ぶこともありましたっけ。

 

蘇ったあの頃の私の声は、

此処で過ごした幾つもの思い出を一気に蘇らせました。

 

幼かったあの子が、大きなぬいぐるみを抱えて喜ぶ姿。

 

私が欲しがった景品を狙って、

真剣な眼差しでクレーンを動かすあなたの姿。

 

ゲームが上手だったあなたのお陰で、私たちはいつでも、

欲しかったものを手にしていたのでした。

 

頻繁に行くお店である筈なのに、

これまでの私が、ゲームセンターの前を素通りしたままで、

そこでの思い出を振り返ったことがなかったのは、

これまでそこに、

欲しいと思う景品が並んでいたなかったからなのかも知れません。

 

今の私にとっては、

買い物をするためだけに行く場所となったあのお店には、

これまで、辿ったことのなかったあの頃の思い出が、静かに眠っていたようです。

 

もしも、あの夏の運命が違っていたのなら、

今頃の私は、あのぬいぐるみを手にしていたのでしょう。

 

あなたが此処にいないということは、

ゲームセンターで欲しい景品を見つけても、取って貰えないということなのだと、

初めてこんな視点を見つけてもしまいましたが、

今回、あのぬいぐるみを見つけることがなければ、

私は、あの場所で眠り続けていたあの頃の記憶も、集めることがなかったのでしょう。

 

あのぬいぐるみを手にすることは出来なかったけれど、

その代わりに私は、

これまで一度も思い出すことのなかった大切な思い出を手に、帰ることが出来ました。

 

そんなに欲しかったのなら、挑戦してみたら良かったのではないかと、

こんなあなたの声が聞こえて来そうですが、

蘇った記憶を見つめていたらね、

例え自分で取れたとしても、

あの頃のあなたが取ってくれた景品には、

敵わないのかも知れないなって、ふと、こんな気がしたのです。

 

自分で取るのと、あなたに取ってもらうのとでは、

私の中では、全然、意味が違うの。

 

あなたが取ってくれたことで、愛おしさが何倍にも大きくなるのよ。

 

いや、でも。

やはり、アレは、欲しかった。

どうしても欲しかったと、家に帰って来てからの私の中には、

こんな名残惜しさを見つけて、なんだか笑ってしまったけれど、

私は、あなたに取って貰ったあのぬいぐるみが、

どうしても欲しかったのかも知れませんね。

 

 

 

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