拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

亡き夫と過ごした7日間 3

「そうだ。先ずはコーヒーでも淹れようね。」

 

先程、亡くなった筈の夫との再会を果たした私は、あのまま手を繋いで歩いた。

静かに、何の言葉も交わさずに、ただ歩き続けた。

とても逢いたかった人に本当に逢えた時というのは、

本当なら、もう二度と逢える筈のない人と逢えた時というのは、

何も言葉が出て来ないものなのだろうか。

 

・・・いや、きっと違う。

私は、繋いだ手に感じる2人だけの温度を、

ただ大切に感じ切りたかったのかも知れない。

あの道を夫と2人で歩いたあの時間に、言葉なんていらなかったのかも知れない。

ただ黙って静かに歩き続けた私たちは、やがて家に帰って来た。

 

そうして私は、先ず、

コーヒーを淹れようと、キッチンへ立ったわけだけれど。

 

チーーーン

 

私の耳に届いたのは、おりんを鳴らす音だった。

 

驚いて夫の仏壇の方へ目をやると、

なんと夫は、自分の仏壇に線香を立てて手を合わせているではないか。

 

いやいや。何をしているの?

自分の仏壇に手を合わせる人、初めて見たわよ。

 

言葉にはしなかったが、

自分の仏壇に手を合わせる夫の姿、という絵面が、

実にシュール過ぎる絵面にも思えて、

申し訳ないような、そして、笑ってはいけないような気がしながらも、

コーヒーを淹れながら笑ってしまった。

 

折角、声を出さずに笑っていたのに、

夫は、いつの間にかキッチンに入って来ていて、

面白いものでも見つめるかのように、静かに笑う私を見ているではないか。

 

「コーヒー、入ったよ。」

 

慌てて真面目な顔へと整えて、

夫へコーヒーが入ったマグカップを手渡してみたけれど、言われてしまった。

 

『今、俺の仏壇に手を合わせる俺を見て、笑ってたでしょう?』

 

2人でコーヒーを飲みながら、夫は、先程、私が笑っていたのを見て、

嬉しかったのだと、こんな話をしてくれた。

 

『俺は、誰かを悲しませるために、この世界に生まれて来たわけじゃないから。』

 

夫を亡くしてからの私は、少しずつ、

自分の生きる道を見つめられるようになり、やがて、

それまでには持ったこともなかったような視点から、人生を見つめるようにもなった。

 

誰かの言葉、感じたもの。

様々な偶然が重なり合って、いつしか私は、

自分が生きる人生は、実は自分で選んで生まれて来たのだと、

こんな考え方を正解として生きるようになったけれど、夫はそれを正解だと言った。

 

『俺には俺の目的があって、どう生きるのかを決めて、この世界に生まれたんだよ。』

 

確かに短い人生だったと言えるのかも知れないけれど、

それは私やあの子を泣かせるために選んだ人生なわけではないのだと言った。

だから、今みたいに、笑っている私を見て、とても嬉しかったのだと。

 

え?でも。

それなら・・・、それならさ。

私の笑顔を望んでくれるのなら、もっと別な人生があった筈ではないか。

 

私は、夫と早くに死別することなど、望んではいなかった。

たくさん泣いたし、ずっと、夫に逢いたかった。

 

この10年間ーーーそう。

次の夏が来たら夫と死別してから11年を迎えるけれど、

1日足りとも、私は夫を想わない日などなかったのだ。

 

どうして夫は死んでしまったのか。

 

人生を自分で選んで生まれると言うのなら、

何故、私たちは、この人生を選んで生まれたのか。

 

答えの出ない答えを探し続けながら、私は生きて来たのだ。

 

私は、私が見つけた答えを正解として受け入れながらも、

時には全く別な感情とも向き合い続けて来た。

 

私は、とても苦しかった。

 

「ねぇ、あなた・・・」

 

夫の名前を呼んでみれば、

夫を亡くしてからの10年間に詰まった様々な感情が一気に溢れ出して、

言葉に詰まった。

 

そんな私を、穏やかな顔で見つめていた夫は、

私の髪を撫でてから、静かに抱き締めてくれた。

 

夫の腕の中で、その温度を感じれば、

私の中にぐちゃぐちゃに押し寄せた様々な感情は、

少しずつ穏やかなものへと変わり、やがて勝手に涙が零れ落ちた。

 

頬に感じた涙の温度は、

これまでには感じたこともないような不思議な気持ちのする穏やかな温度で。

 

そうして私は、何故だかよく分からないけれど、

夫が居なくなってしまったこの人生をちゃんと生きようと、

改めて決断をし直したんだ。

 

今、こうして、夫が私のすぐ側にいるにも関わらずに。

 

 

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