どれくらいの間、夫の腕の中の温度を感じていただろうか。
やがて夫は、静かに腕を緩めて私の頬を拭うと、とても穏やかな顔で口を開いた。
『今、どんな気持ちを感じている?』
私は今、夫が居なくなってしまった私のこの人生を、しっかりと生きたいと思った。
もしも、この人生を選んで生まれたとするのなら、
きっといつか、生まれる前の私が望んだ景色を見つけられる日が来るのかも知れない。
それなら、この人生をしっかり生きて、
私が何を望み、何を見たかったのかを知りたいと、
いつの頃からか、私はこんなふうにこの人生を見つめるようになったのだ。
今、私が流した涙は、
私に、それを改めて決心させたのだ。
『それでいい。うん。それでいいんだよ。』
なにひとつ、今感じた気持ちを言葉になどしていないのに、
夫は、私の中にある気持ち全てを知っているかのように、
私が今、私の中で感じた全てを肯定する言葉をくれた。
とても嬉しそうな顔をして。
私は、ずっと夫に逢いたかった筈なのに。
私はただ、夫と一緒に、人生を過ごしたかった筈なのに。
大きな矛盾の間に出来た隙間には、いつも大きな痛みが生まれる。
それはとても、耐え難い激しい痛みであるにも関わらず、どこにも逃げ場はなくて。
私は、激しい痛みを感じ切る以外の術が見つからないままに、
ただ黙って、感じるもの全てを静かに受け入れてから、
相変わらずに、
自分の気持ちをひとつも言葉に出来ないままに黙って夫を強く抱き締めれば、
夫は再び私を強く抱き締めると、言ったんだ。
『幸せに生きて欲しい。』と。
そうして語られたのは、何故、今日、
夫がこうして私の目の前に現れたのかについての経緯と理由だった。