夫の話は、何もかもが驚く話ばかりだ。
一息吐きたくて、コーヒーへと手を伸ばせば、
夫の分のコーヒーが、一口も減っていないことに気が付いた。
「あれ?コーヒー。飲まないの?」
さっき、確かに一緒にコーヒーを飲んでいた筈だったのに。
『俺は、もう、飲むことも食べることも出来ないよ。
この世界に生きているわけじゃないから。
でも、香りは楽しむことが出来るんだよ。だからコーヒーを淹れてくれて嬉しいよ。』
そう言ってコーヒーに手を伸ばすと、香りを嗅いでいた。
さっき、一緒に飲んでいるように見えていたのは、
コーヒーの香りを楽しんでいただけだったのだ。
夫は、薬品の力により物質化されただけであって、肉体を持ったのとは違う。
触れれば温かいし、声も聞こえる。
でも、夫はもう、生きている人間ではない。