拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

亡き夫と過ごした7日間 18

チーーーン

 

向こう側の事故によって、夫が我が家へ帰って来てから、5日目。

今朝も元気に夫がおりんを鳴らしたところから我が家の新しい朝が始まった。

 

夫がおりんを鳴らし終えたら、3人でコーヒーを飲むところまでが、

今の我が家での朝の流れだ。

 

「ゴリラの人とは、交信出来た?」

 

これは、あの子の声。

 

あの、直前の生がゴリラだったのだという例の優秀な魂の人は、

私たちの中で、ゴリラの人と呼ぶようになっていた。

 

『出来ない。何の手掛かりも掴めないし。』

 

夫は、小さくため息を吐いた。

 

「毎朝おりんを鳴らすのは、向こう側と繋がれるかどうか試しているの?」

 

これは、密かに私が抱いていた疑問だった。

毎朝、笑っておいてアレだが、実は夫が毎朝おりんを鳴らすのには、

夫なりの何かがあるのではないかとも考えていた。

 

『いや。それはここに仏壇があるから。別に意味はない。』

 

「でも、おりんを鳴らすのって、

向こう側の人に話し掛ける時の合図みたいなものよね?」

 

『それはこの世界の人のやり方。

別におりんを鳴らす鳴らさないは、向こう側からしたら関係ないんだよ。

想えば届くから。』

 

うん。そっか・・・。

向こう側と繋がる方法もないし、ゴリラの人とも会えないし、繋がれない。

私たちが再会したあの場所にも、手掛かりは残っていなかったし、

夫がおりんを鳴らすことにも、特別な意味は、何も隠されてはいなかった。

 

コーヒーを飲みながら、

夫は、コーヒーの香りを楽しみながら、

私たちは次の策を探そうとした。

 

「向こう側の人たちは、

こうして物質化してしまったあなたとゴリラの人を心配して、

様子を見に来ているかも知れないね。」

 

こう声を掛けながら、私は、

目には見えない向こう側の人たちがそっと夫の側に寄り添う姿を想像してみた。

 

『うん。そうだと思うよ。』

 

でも夫は、物質化されたことによって、

向こう側からの声も想いも一切、遮断されてしまっている。

だから、何も感じることが出来ない。

それは、私が思っているよりもずっと、心細くて苦しいものなのかも知れない。

 

そっと夫の肩に手を置けば、夫は、ハッとしたように顔を上げた。

 

『そうだ!2人なら出来るのかも知れない。ちょっとやってみてよ。』

 

夫は、私たちに、向こう側の人たちと繋がってみてほしいと言い出した。

 

「え?どんなふうに?」

 

『目に見えない時の俺が話し掛けた言葉をキャッチする時みたいに。』

 

そう言われると、どんなふうにしているか分からない。

思わずあの子と顔を見合わせると、

2人とも目を閉じてみてと、こんな夫の声が聞こえた。

 

『力を入れる必要はないんだよ。何かを聞こうともしなくていい。

心を沈めて、頭を空っぽにして。感じたものを言葉にしてみて?』

 

夫の声に従って、あの子と2人で集中してみる。

我が家が静寂に包まれる。

 

少しずつ、集中の真ん中へと入って行けば、やがて我が家の静寂を破ったのは、

あの子の声だった。

 

「・・・お腹が・・・空いた・・・」

 

静寂だった筈の我が家の中に、3人分の笑い声が響く。

 

ダメだ。これはあの子の心の声だろう。

そう言えば、朝ごはんがまだだった。