「あ!そうだ!」
アレはどうだろうかと思った。
朝食を摂りながら、私はひとつ、思い出したのだ。
向こう側の取り組みのひとつとして、
動物に生まれ変わった魂がいると、夫はこんな話を聞かせてくれた。
「それならさ、その動物に会いに行くっていうのはどう?」
『何処にいるか分からないしな・・・』
仮に会えたとしても、取り組みの内容が違うから、
夫が抱えたこの問題への解決には至らないと夫は言った。
次に口を開いたのは、黙って食事に集中していたあの子だった。
「お父さんのチームには、仲間がたくさんいるんでしょう?
それならさ、向こう側の人たちが、
物質化を戻す薬みたいなのを考えているかも知れないよね。」
『そうかも知れない。ただ、さ、この取り組みのリーダーってさ・・・』
ゴリラの人だったらしい。
「恐るべしゴリラ。」あの子はこう呟きながら、
相変わらずに忙しなく、食事を口へと運んでいる。
それなら、こちら側で、夫を元に戻すような薬品を作ることは出来ないだろうか。
こんな私からの提案も、即却下だった。
『俺は、分かりやすく話をするために薬品って言ったの。
この世界にある薬とは全く意味が違うよ。』
向こう側で開発されたそれは、
この世界にあるもので作れるわけではないのだそうだ。
アレもダメ、これもダメ、全部ダメ。
手詰まりだと思った。
「どうして、こんなことになっちゃったんだろうね。」
思わず呟きながら、夫が話して聞かせてくれた様々な話を反芻してみた。
夫は、エネルギーの問題から、こうなってしまったんだった。
私たちはこれまで、夫が元に戻る方法を考え続けて来た。
だって、その方が重要だと思ったから。
でも、解決策が見つからない。
それなら、角度を変えて話をしてみるのはどうだろうか。
こんな提案をしてみようかと思えば、先に口を開いたのは、あの子だった。
「よく考えてみれば、俺たちが向こう側を創るってさ、すごい話だよね。」
食事を終えて、あの子は丁度、パソコンを立ち上げたところだ。
今日は、簡単な作業を進めるだけだから、
話をしながらでも特に問題ないのだと言う。
こうして、今日の私たちは、あの子の側に集まって、
これまでとはまた違った視点から話をすることになった。
『まぁ、大体の人が驚くだろうね。
この世界にいる人たちは皆、忘れているからさ。』
私も確かに、夫の話には驚いた。
夫と再会した日の私は、夫の話について行くのがやっとだった。
こうして、改めて元の問題へと目を向けてみれば、
向こう側は今、大変な事態なわけだ。
そして、その問題はこの世界にいる私たちにとっての問題ともなって来るわけだ。
「でも、俺はなんだか余計に人生が楽しくなったような気がする。やる気が出た。」
うん。確かに。それは私も同じだった。
人は幸せになるために生まれて来たという視点から、
改めて人生を見つめ直してみれば、
また違ったものも色々と見えて来るのだと思う。
そして、私たちがこの世界で幸せに生きることは、
向こう側を創ることにも繋がる、というのも、とても素敵だなと思った。
「囚われ続けたままでそっちに還る魂もいるって話を聞かせてくれたと思うけれど、
そういう人は、そっちに還ってから後悔してしまうものなの?」
夫が聞かせてくれた話をひとつひとつ反芻すれば、
聞いてみたかったことを思い出した。
『そうだね。後悔はするよ。
人間みたいに、ネガティブな感情で、後悔するのとは違うけどね。』
それは、向こう側に還った時には、
プラスのエネルギーだけになっているからだそうだ。
向こう側に還ってから、その人生での目的を思い出して、明るく後悔する。
そんな感じだと言う。
「で?その人はどうするの?人生終わっちゃったじゃん。」
これはあの子からの質問。
『大体の魂は、同じ人生をもう一回やり直すんだよ。』
目的を果たせないままに、人生を終えてしまった魂の大半は、
同じ人生を選んで生まれ直すのだと言う。
その人生の中での辛かったことも、苦しかったことも、全部やり直しだ。
それでも、その人生を望んで生まれる。
どうしても目的を果たしたいから。
『目的を果たすのってね、宝物を手に入れるのと同じなんだよ。
その人生でなければ手に入れられない宝物がある。
だから、もう一度、同じ人生を選んで生まれ直すんだよ。』
「え?そんなこと出来るの?時間を戻すってことなの?」
これはあの子と私からの質問。
『こっちでは、時間という概念は存在していないんだ。
この世界では、時間の流れがあるから、過去に戻ることは出来ないけれど、
俺たちが存在している世界は違う。
だから同じ人生をやり直すことも出来るし、もっと言えば、
江戸時代にでも、縄文時代にでも、生まれ変われるし、
今のこの時代から100年後に生まれることも出来るんだよ。』
時代を選んで生まれることが出来ると言うのなら、
私たちはこの時代を選んで生まれて来たということになるのだろう。
何故、私たちはこの時代を選んだのだろう。
よく考えてみれば、夫は全てを知っていると言うことではないのか。
これは聞きたい。是非聞きたい。
そう思って聞いてみたけれど、夫は教えてはくれなかった。
『俺は教えないよ。自分で見つけて。』
人生の中で、どうしてだろうって思った疑問は、
必ず自分で見つけられるようになっているのだと言う。
だから、本気で答えを求めているのなら、
いつか自分の中での答えが必ず見つかるのだと。
どれだけ勉強しても、例え世界中の本を読み尽くしたとしても、
そこに答えはない。
他人の言葉で納得したつもりになっても、それは借り物にすぎない。
本当に正しい答えは、自分の中でしか見つからない。
心の奥底で腑に落ちた瞬間、それこそが【唯一無二の正解】だ。
正解は、誰かに教わるものじゃない。
自分の手で、掴み取るものだ。
だから、頑張って自分の答えを見つけてねと、夫は涼しい顔で笑っている。