『俺は今、凄く極端な話をしたけれど、普通と呼ばれる人生の中で、
とても幸せな毎日を過ごす人も実はたくさんいるんだよ。』
その魂が持った夢は、この世界で大好きな人と出会って、
幸せな家庭を築き、毎日、幸せに暮らすこと、だったそうだ。
年頃になったその魂ーーー彼女には、やがて、
自分はこの人と出会うために生まれて来たのだと思える人との出会いが訪れた。
2人の交際は順調に進み、やがて家族となった。
『よくあるでしょ?好きな人と結ばれて、めでたし、めでたしな話。
でも、その先に待っているのは、現実だ。』
彼女たちの間には、やがて2人の子供が生まれた。
何もかもが順調そうに見えていた彼女の人生だったけれど、やがて、
彼女が抱えるようになったのは、ご近所絡みの問題だった。
何故か上手くいかない。
『彼女は、専業主婦だったんだけれど、家にいることが嫌になって、
下の子が小学校へ上がったタイミングで、パートに出ることにしたんだ。』
そうすることでご近所とも距離を取れるようになれる。
そう考えての決断だったのに。
『今度はね、職場での人間関係に悩むことになった。』
自然と、旦那さんに話す内容も、愚痴のようなものが多くなった。
愚痴が多くなれば、険悪なムードにもなる。
やがて旦那さんは、彼女と距離を取るようになって行った。
丁度その頃、旦那さんも、仕事で上手く行かないような物事が起こり始めた。
マイナスのエネルギーの拡大だ。
そんな時だった。
子供が通う学校で、
自分の生い立ちについてを発表するという授業が行われるにあたり、
子供と一緒に、アルバムを開く機会があったのだそうだ。
その子が生まれた日からのアルバムを見ていたら、彼女は言われたそうだ。
この頃は、幸せそうだったねって。
『彼女はね、我が子から言われた、幸せそうだった、
という過去形の言葉が妙に引っかかったんだって。』
その言葉は、今は、幸せそうではないということにもなるから。
そうして、彼女は、今の自分自身をよく見つめてみれば、
幸せとは程遠い自分であることに気が付いた。
それは何故なのか。
旦那さんが私の話を聞いてくれない、分かってくれない。
職場の人が悪い。職場で嫌なことがなければ、私は愚痴を言うこともなかった。
いや。元々、ご近所の人が原因で、パートに出ることにしたのだ。
ご近所の人が原因だ。
あの人のせいで自分は今、幸せではないのだ。
『彼女は、全部、周りの人のせいにしたんだって。
だって、その方が実は楽だからね。』
彼女は次第に、周りの人たちを恨むようになって行った。
そうしてある日、職場で揉め事を起こした彼女は、退職することになった。
「え?このタイミングで仕事辞めちゃったら、
ご近所の人との戦いになっちゃうよね?」
こんな私の言葉に、夫はそうではないと首を横に振った。
『彼女たちは、特に引越しの予定はない。
後のことを考えれば、ご近所の人とのこれ以上の揉め事は避けたいよね。
だから彼女は、別なパート先を探したんだ。』
幸いにも、次のパート先は直ぐに見つかった。
彼女は職場を変えたことで、安泰だと思った。
だって、前の職場は、人間関係が随分、酷かったから。
今度こそ、幸せになれると思っていた。
それなのに、そうはならなかった。
結局、前の職場と似たような人間関係の中で、似たような悩みを抱えるだけだった。
『彼女はね、辛い気持ちになる度に、
子供が生まれた日からのアルバムを巡るようにしていたんだって。
我が子から、幸せそうだったと言われたあの頃の自分を思い出したくて。』
そんなある日のことだった。
アルバムを閉じて、ふと顔を上げると、
偶然、鏡に映った自分の顔が目に飛び込んで来て、彼女は飛び上がったのだそうだ。
『私、ゾンビみたいーー!!ってね。』
改めて鏡に映った自分の顔を見つめた彼女の中へと蘇ったのは、
幼い頃におばあちゃんから言われた言葉だったのだそうだ。
【顔はね、自分で作るものなんだよ。】
これは、彼女が幼かった頃に、
偶然テレビに映っていたお姫様みたいな美しい女性を見て、
どうしたらこんなふうになれるのかと、
こんな質問をした時にくれた言葉だった。
心が醜い人は、顔も醜くなってしまうんだよ。
美しい人になりたかったらね、ちゃんと心を磨くんだよ。
そうすれば、きっとあんなふうになれるから。
顔はね、自分で作るものなんだよ。
どうしたら心を磨けるの?
幸せに生きることだよ。
どんなふうに生きれば幸せなのか、ちゃんと考えて生きるんだよ。
迷った時には、心に聞きなさい。
頭で考えるんじゃなくて、心で考えるんだよ。
心に嘘をついてはいけないよ。
幸せに生きることはね、簡単じゃないんだ。
でもね、諦めてはいけないよ。
人はね、誰も幸せになるために生まれて来たのだから。
ずっと忘れていた言葉を思い出した彼女は、涙を流した。
『そうして、彼女は幸せに生きる決断をしたんだ。』
それからの毎日、彼女は、自分自身と向き合う時間を取ることにした。
自分は、どう生きたら幸せなのか。
自分にとっての幸せとは、一体、何なのか。
『実はね、自分自身と向き合わない方が、楽だとも言えるんだよ。
だって、家庭のこと、仕事のこと、
彼女にとってのやらなければならないことは、日々山盛りだ。
どこにそんな時間があるのよって、匙を投げた方が楽。
でも、彼女はその【楽】を選ばなかった。』
それは、おばあちゃんの、幸せに生きることは、
簡単ではないという言葉があったからなのだそうだ。
自分自身と向き合い続けながら、彼女はやがて、
問題は、自分の外側ではなく、自分の内側にあると気が付いた。
今の自分が幸せでないのは、旦那さんのせいでも、職場の人のせいでもなく、
自分で自分を幸せにしようとしていないから、
今の自分は幸せではないのだと、こんなふうに彼女は考えた。
『彼女は、自分自身と向き合う中で、
実は、もうひとつ、気が付いたことがあったんだ。
彼女は、どう生きれば自分が幸せであるのか、
よく分かっていないことに気が付いたんだ。
だって、そんなふうに考えたことは、これまで一度もなかったから。』
だから彼女は、少しずつ、日々の生活を変えてみた。
寝る前に、良い香りのするパックをする。
ほんの少しだけ早起きをして、朝日を浴びる時間を取る。
月に1冊は本を読む時間を取ってみる。
本当に些細なことからだったけれど、
自分が幸せだと感じる時間を、日々の生活の中へと取り入れて行った。
そんなある日、
殆ど会話もなくなっていた旦那さんから、綺麗になったと褒められて、
その頃から少しずつ、旦那さんとの仲が修復されるようになって行ったのだそうだ。
エネルギーという視点からこの頃の彼女を見つめるのなら、
マイナスのエネルギーを発することの方が多かった時期を経て、
彼女は少しずつ、プラスのエネルギーを発するようになって行く。
そんな時期になるのだが。
『この、エネルギーの切り替わりの時ってね、
実は一見して、ネガティブだと思えるような出来事が起こることもあるんだよ。』
彼女は職場で急に孤立した。
『それまでも、人間関係は決して良いものではなかったけれど、
彼女にも仲間がいたからまだ良かったんだ。』
でも、ある日を境に、職場の皆から標的にされるようになってしまったのだ。
『これね、一見すると、
もの凄く嫌なことが起こっているようにも思えるけれど、
実はエネルギーが引き合わなくなっているってことなの。
これまでの彼女はさ、職場の人たちと同じように、
マイナスのエネルギーを発していたのに、
1人だけプラスのエネルギーを発するようになったから。
だから、孤立するんだよね。』
でも、彼女は特に、大きく傷付くようなこともなかった。
職場の人たちを見つめながら、彼女自身もまた、そこにいる人たちと合わないと、
感じるようになっていたからだった。
けれど、そこの仕事が嫌いではなかった彼女は、
仕事を続けていたのだそうだったが、
ある時、彼女にだけ、仕事の引き継ぎがされないという出来事が起こり、
彼女は大きなミスをすることとなった。
これもまた、職場での彼女への嫌がらせのひとつだった。
態と聞こえるように言われる陰口には我慢が出来たけれど、
仕事に影響が出るようなやり方には、納得が行かない。
そうして彼女は考えた。この職場にいて自分は今、幸せなのだろうかと。
心の声に耳を傾ければ、直ぐに答えは出た。
そこで、次のパート先を決めてから退職をしようと決めて、
彼女は動き出したけれど、なかなか次のパート先が決まらなかった。
パートをしながら、求人雑誌を眺めては面接に出掛ける日々が続いた。
一旦パートを辞めてしまうのもひとつの手だけれど、
実はそう出来ない事情があった。
丁度、彼女が今のパート先へと決まった頃から、
旦那さんの会社の業績が悪化して、収入が下がってしまったのだ。
故に自分も働かなければならない。
そんなある日。面接の帰り道で彼女が見つけたのは、
オープンしてから間もないのであろうお弁当屋さんだった。
その時、既に数社からの不採用の連絡を貰っていた彼女は、
なかなか上手くいかない物事に疲れ果てていた。
今日は少しだけ贅沢をする気持ちで、
自分のお昼ご飯にと、お弁当を買って帰ることにしたそうだ。
「いらっしゃいませ!」
店内へと入れば、女性の元気な声が聞こえて来た。
メニューを見てみれば、どれも美味しそうだけれど、
彼女が強く惹かれたのは、【頑張れ弁当】という、
ちょっと変わった名前の弁当だった。
他の弁当との大きな違いは、その、頑張れ弁当にだけ、
ご飯の部分に、海苔でにっこりとした笑顔が描かれており、
その直ぐ下に、頑張れ!自分!というメッセージがやはり海苔で書かれているのだ。
メッセージも、今の彼女に相応しいものであるようにも感じたが、
彼女が強く惹かれたのは、そこに描かれた笑顔だった。
兎に角、楽しそうに笑っているのだ。
彼女は、この、頑張れ弁当をひとつ注文すると、
レジの横に置いてあった求人雑誌を手に取って、
パラパラと巡りながら、お弁当が出来上がるのを待つことにした。
まだお昼前だからだろう。
先ほど店から出て行った客と入れ違いに入った自分以外、客は誰もいなかった。
静かな店内にあるのが、澄んだ綺麗な空気であるような気がして、
彼女は、なんとも言えない居心地の良さを感じていたそうだ。
「お待たせしました!・・・あら?あなた、仕事を探しているの?」
出来上がったお弁当を持って来てくれた女性は、彼女にこんな声を掛けた。
彼女は求人雑誌へ落としていた顔を上げると、
えぇ、そうなんですと、曖昧に笑って答えながら、
弁当を受け取ったが、次に聞こえた言葉に、彼女は一瞬、耳を疑った。