「この彼女は、今も何処かで元気にしてるの?」
これはあの子からの質問だ。
『いや。この人生を全うして、こっちに還って来ていたけれど、また生まれたよ。
今頃、赤ちゃんだと思うよ。』
その魂は、今回のマイナスのエネルギーが届くようになった問題で、
急いで生まれ変わった魂のうちのひとりなのだと言う。
とにかく幸せに生きる。
自分と出会った人たち皆が、
幸せに生きることに目覚めてくれるような人間として生きる。
こんな目標を持って、新たな生を歩み始めたばかりなのだそうだ。
『あぁ、ついでに話しておくとね。』
この弁当屋のご夫婦と彼女は、
この生の前の生、即ち、前世では、親子だったのだそうだ。
彼女は今回の生でも、このご夫婦の間に生まれる人生を選んだのだと言う。
「また私たちの元に生まれてらっしゃいよ。
今度は別な形での幸せを一緒に作って行きましょうね。」
向こう側で、こんなふうに約束を交わして生まれたのだそうだ。
とんでもなく強いエネルギーを発する親子になりそうだ。
『繋がりが強い魂ってね、前世でも、そのまた前世でも、
こんなふうに関わり合うようになっているものなんだよ。』
「え?ということは、私たち家族も?」
『勿論、そうだよ。』
「え?前世ではどのような・・・。」
『俺は教えないよ。全部、自分で考えて。さっきも言ったでしょ。』
夫は笑っている。
これもまた、自分で答えを見つけなければならないのだろう。
でも、きっといつか、見つかるのだと思う。これだと思える私だけの真実が。
「いやーなんだか、凄いね。
俺、今、人生ってものが全然違うものに見えて来たわ。」
こんなあの子の声に私も頷く。
私も今、あの子と全く同じ気持ちを感じている。
今日、何杯目かになるコーヒーを淹れた。
それぞれにマグカップを持って、コーヒーの時間を楽しんでいたが、
ふと、あの子が顔を上げて言った。
「今の彼女の人生ってさ、全てがよく出来ているような気がする。」
『そりゃそうだよ。誰の人生も、綿密に計算されているから。
実はちゃんと、幸せに生きられるように出来ているのが人生なんだよ。
でも、幸せに生きるのって、簡単なことじゃない。
だから囚われたままで人生を終えてしまう人がいたり、
囚われたままを望んで生きる人がいるの。
だって、囚われたままの方が楽だからね。幸せではないけれど、楽ではある。』
「あぁ、なるほどね。でも、なんかさ、勿体ないよね。折角生まれて来たのにさ。」
こんなあの子の声に頷きながら、
彼女の人生についてをもう一度、反芻してみた。
幸せに生きることは、とても難しい。
でも、私は、常に努力し続ける人間でありたい。彼女のように。
あの子もまた、彼女の人生についてを反芻していたのだろう。
コーヒーを一口飲むと、ポツリと言った。
「この彼女の人生で言うのなら、
もしもご近所問題がなかったら、ずっと幸せに暮らすことになったよね。
変な言い方だけど、それはそれで飽きるよね。」
マイナスのエネルギーが存在するこの世界には、
そんな人生など、ないのかも知れない。
でも仮に、あの子が言うような人生があるとするのなら、
確かに、よく考えてみれば、飽きるのかも知れない。
『そう。人ってね、飽きるんだよ。現状維持に。』
こんな夫の言葉に、なんとも欲深い生き物だと、冗談めかしてあの子が言えば、
それは欲深いわけじゃないよと夫が言う。
『現状維持に飽きることは素晴らしいことなんだよ。
だって、更に幸せになることを目指そうとするのだから。』
そうして夫が次に聞かせてくれたのは、ちょっと不思議な視点だった。
『自分の人生にしっかりと向き合って生きることってね、
現状を維持しようとは思わなくなることでもある。
どうしても次を見つけたくなってしまうものなんだ。』
更なる幸せへのステップに進みたくなる。
それが自分の人生と向き合っていることとも言える。
そしてそれは、時に来世の目標を見つけることにも繋がる。
『自分の人生にちゃんと向き合って生きるとね、やがて気が付くんだよ。
ひとつの人生だけでは足りないということに。』
そうして語られたのは、例のゴリラの人の話だった。