ファーストフード店でお昼ご飯を買い込みながら、
次に到着した先は、薔薇が咲く公園だった。
「え?嬉しい!もう一度、此処に来たいと思っていたの!」
思わずこんな声を上げれば、だと思った、と、あの子が笑っている。
此処は、家から少し距離があって、道もよく分からなくて、
ひとりで来たいと思いながらもなかなか来れなかった場所だった。
『あぁ、懐かしいな。一度だけ、3人で来たことがあるんだよ。』
夫は、あの子にこんな声を掛けた。
そう。此処は、あの子がまだ幼かった頃、一度だけ、
夫が連れて来てくれた場所だった。
小さな足で一生懸命に歩くあの子を見つめる夫の姿。
また来ようねと今度の約束をしたこと。
此処で見た景色は、今でもよく覚えている。
あれから一度も、此処へ訪れることがないままに、
やがて夫は、この世界から居なくなってしまった。
私が再びこの場所へと訪れたのは、あの子が高校生の頃のことだった。
あの子の中に、此処へ来た記憶は残されてはいなかったけれど、
あの日のあの子は、きっとお母さんが気に入る場所だからと、
夫と同じ言葉と共に、此処へ道案内してくれたのだ。
私の中での此処は、そんな不思議な記憶の残る場所だ。
あの頃の記憶を辿りながら、
綺麗な薔薇の景色を眺めていると、あの子は、
ここで家族写真を撮ろうよと提案してくれた。
夫を真ん中にして、家族3人並んでシャッターを押した瞬間に、
夫は七色に輝いた。
そうして撮れた写真に映った夫は、身体が随分と透けていた。
「なにこれ?心霊写真じゃん!」
撮ったばかりの写真を見つめながら、あの子と私は爆笑した。
これは、世界一怖くない心霊写真だ。
「お父さん、キメ顔してるのに、透けてるよ!」
写真を見ながら、何度も爆笑する私たちを見つめた夫は、嬉しそうに笑っていた。
『笑うことってさ、もの凄いプラスのエネルギーを発生させているんだよ。
人には色々な感情があるけれど、俺は、
2人には、いつも笑っていてほしいって、思っているんだ。』
そうして夫が話してくれたのは、感情が発生させるエネルギーについてだった。
例えば、怒ることも笑うことも、
どちらも強いエネルギーを発することなのだと言う。
勿論、怒ることは、強いマイナスのエネルギーを発することであり、
笑うことは、強いプラスのエネルギーを発することだ。
『強い感情を感じるとさ、疲れるだろ?
それはね、強いエネルギーを発生させるからなんだよ。』
こんな夫の声に、確かに、と思った。
お腹が痛くなるほど笑った後は、少しだけ疲れてしまう。
そして、とても怒った後というのもまた、疲れる。
「同じ疲れるなら、毎日、笑い過ぎて疲れていたいよね。」
あの子の言葉に頷きながら、私たちは、ベンチに座った。
笑い過ぎて疲れたところで、お昼ご飯を食べることにした。
「向こう側へ還ったら、あなたは忙しくなるの?」
『そうだね。人間の言う忙しいとは少し違うけれど、やることがいっぱいだね。』
あの土手の上で、
今の夫がやりたいことについてを話して聞かせてくれたことを思い出す。
あの時に見せてくれた夫の顔は、本当に良い顔をしていた。
「私、応援してるからね。」
隣に座る夫の手を握り締めれば、
夫は微笑んで、私の手を優しく握り返してくれた。