拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

あの夏に置いておくもの

あなたへ

 

そこを右に曲がることだけは覚えてる。

でも、その先はもう覚えてはいない。

 

ぼんやりと、こんなことを考えていたのは、

あなたが息を引き取ったあの病院へと向かった幾つかの日の中でのことでした。

 

あの角を曲がり、更に幾つかの角を曲がれば、

細い道を通らなくとも病院の裏側へ出られることを知りながらも、

そんな道など通ったこともないような振りを続けながら、

私は毎度、あまり好きではないにも関わらず、

細い道を通ってあの病院へと向かいました。

 

だって、あの角を曲がった後は、どんな道順を辿れば良いのか、

私はもう、覚えてはいないもの。

 

春の頃から、幾度かに渡り、あの病院へと足を運んだ私ですが、

あの病院と向き合わなければならなかった明確な理由は、

結局、分からないままに、行く必要がなくなりました。

 

もう、あの病院で感じる痛みと向き合わなくても良いのだという安堵の気持ちと、

腑に落ちない気持ちとが複雑に入り混じったものが、

胸の片隅に小さく蹲っているけれど、

こうして振り返ってみれば、

私は、今回、あの病院と向き合いながらも、

初めから決めていたことがあったことに気が付きました。

 

あの角だけは、絶対に曲がらない。

だって、あの先にあるのは、

あなたと一緒に観たかった景色なのだから、と。

 

あの夏に置いておくものをひとつ見つけただけで、

集める予定だった何かを見つけることが出来ないままに、

あの病院へ行く機会を失ってみれば、

時間を掛けて、漸く静けさを取り戻した筈の胸の内を、

ただ乱されただけの出来事であったようにも感じてしまいますが、

此処から更に先へと歩まなければ、

見つけることの出来ない何かへと、やがて繋がる出来事となるのかも知れません。

 

そう。何故だか、医療関連のテレビドラマを観てみようと思えた理由が、

あれから先へと歩まなければ、見つけることが出来なかったように。

 

再び取り戻した静けさの中で、更に何かを集め行けば、

きっといつの日か、あの病院の中で集めた痛みたちが、

カチリと嵌まる何かを見つけることが出来るのでしょう。

 

それがどんなものであるのか、今の私には、全く検討も付きませんが、

出来れば、素敵な何かであったら良いなと、

今日の私は、こんなことを考えていました。

 

 

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