あなたへ
食事を摂っていた私の中へと、ふと蘇ったのは、あの子の声でした。
今日は、豚肉が安かったから
これは、先日の電話でのあの子の声でした。
あの日のあの子は、電話をしながら、食事の準備をしていた様子。
今日は何を作っているの?って、私からのこんな質問に、
今日は、青椒肉絲だよ
今日は豚肉が安かったからって、こんな言葉が返って来たのでした。
仕事が一段落ついて、ジムに行けるようになったあの子は、
自炊をする時間も取れるようになったのだなと、安堵すると共に、
あの子の口から、今日は豚肉が安かったという言葉が聞こえる日が来るだなんてと、
驚きと、感動と、可笑しさが入り混じった感情を感じてもいたのでした。
幾らが相場で、幾らであれば安いのか。
そんなことすら知らなかったあの子が、いつの間にか、
今日は豚肉が安いからと、
その日のメニューを考えられるようになっていただなんてさ。
ふと蘇った声に、思わず笑みを溢しながら、私が思い出していたのは、
間も無く此処から巣立つ頃のあの子の、言い訳めいた声でした。
いゃぁ、今日はちょっと違うよね
あの子が巣立つ前に、もう少し料理を教えておこうと考えていたけれど、
何度、誘っても、あの子からは断り続けてられていて。
結局、あの子と一緒にキッチンに立ったのは、一度だけだったけれど、
此処から巣立てば、とても手際良く料理をする様子を見せてくれて、
やがては、お弁当男子なるものへと成長して行きました。
此処から巣立ったあの子には、どれだけ驚かされて来たでしょうか。
今日の私は、先日、感じていた驚きと、感動と、
可笑しさが入り混じった感情をもう一度、感じながら、
料理という視点からのあの子の成長を、大切に振り返りました。
1ページ目はこちらより↓↓