あなたへ
歳を取るとね、言葉が出て来なくなるのよ
アレ、ばっかりになっちゃうものなの
もう、嫌になっちゃう
私の中へとふと蘇ったのは、こんないつかの先輩の言葉と、
あの日、聞こえた笑い声でした。
何の話だったのか、なかなかその名称が出て来ずに、
代わりに、アレ、と言った先輩は、
年齢を重ねると、言葉が出て来なくなるのだと笑っていたのでした。
いつかは、あなたも分かる時が来るわよ
こんな先輩の言葉に笑いながら、あの日の私は密かに、
歳を重ねたずっと先の未来を思い描いたのでした。
アレがアレで、アレだからさ
あぁ、アレね
でも、アレってアレだよね
例えばいつかは、あなたとの会話も、こんな感じになるのかしらって。
でも、アレ、だけで全てが通じ合ってしまう夫婦って、なんだか素敵。
長い年月を掛けて培って来た関係性だからこそ、
分かり合えるものって、きっとあって。
その頃の私たちは、喧嘩という喧嘩、全てをし尽くして、
理解を超えた関係性が出来上がっているのかも知れないと、
あの頃の私は、ずっと先の未来にいる私たち2人を、
そんなふうにも見つめてみたのでした。
新たな記憶がこうして、またひとつ蘇れば、私は何度でも、
もしもあの夏の運命が違っていたらと思い描いてしまうけれど、
きっとこれからも何度でもやって来るのであろうこんな瞬間には、
相変わらずに、もしもを大切に見つめながら、
それを今度の約束へと変えて行くよ。
私だけがこれからも、この世界で歳を重ねて行くけれど、
いつの日か、穏やかに笑うあなたに話し掛ける私の言葉が、
アレ、だけでいっぱいになる日が来るのかも知れませんね。
その時のあなたは、どんな表情を見せてくれるのでしょうか。
時折、別な表情を見せてくれるあなただけれど、
もしかしたら、今の私がまだ見たこともないような表情をしながら、
私の声を聞いてくれるのかも知れませんね。
それは、とても難しい表情でしょうか。
それとも、今にも吹き出しそうな表情でしょうか。
もしもあなたが考え込むような表情をしていたのなら、
だから、アレよ!アレ!って、アレを連発しながら、
その時の私は、いつもの穏やかな表情から一変したあなたへ、
アレについてを、アレ、という言葉で説明するのかも知れませんね。
なんだか笑ってしまうけれど、
そんな未来も楽しみにしながら、歳を重ねて行けたら良いな。
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