あなたへ
お兄ちゃんの影が見えたのよ
あれは、絶対にお兄ちゃんだったよ
不意に私の中へと蘇ったのは、こんなあなたの妹の声でした。
あれは、あなたを見送ったばかりだった頃のことでした。
あなたの告別式を終えて、直ぐにやって来たお盆。
気分転換にもなるからと、
あなたの実家の地域で行われる花火大会へと誘われて、出掛けることにしたあの年は、
あなたの妹家族が私たちを迎えに来てくれました。
花火を観て、あなたの実家へ泊めて貰って、翌日の夜に帰宅しましたが、
私たちを送り届けた後で、何気なく、我が家を見ると、
レースのカーテン越しに、
あなたの影が、家の中を移動する姿が見えたのだそうです。
私は、その話を聞きながら、
その姿はもう、此処になくとも、やはりあなたは居るのかも知れないと、
悲しみや寂しさでいっぱいの頭のままで、ぼんやりと考えていたのでした。
思えば、あの年の花火大会では、唯一、
心霊写真と呼ばれる形で、
この世界にはいない筈のあなたの姿が、写真に収められた年でもありました。
そして、鏡に映ったあなたの姿を、
一瞬だけ見つけたような気がしたのは、お盆が明けてからのこと。
あれは、本当なら、家族3人で観に行く予定だった映画を、
あの子と2人で観に行った日のことでした。
こうして、あの夏に起こった現象を並べてみれば、
あの夏には、既にこの世界には形がない筈のあなたの姿が、
形取られたエピソードが、詰まっているような気がします。
人は、肉体から離れた後も、
ほんの少しの間だけ、形の中に留まれるものなのかも知れませんね。
形のあるこの世界と、形のないそちら側の世界。
今のあなたと私は、全くの真逆な世界に存在しているけれど、
実は、この世界と、そちら側の世界の間の世界が、
存在するのかも知れないと、今の私には、そんなふうにも思えました。
そこは、受け取り手に特別な力があるとかないとか、
そのようなことは全く関係なく、
この世界に存在する人へ、姿形を見せることが出来る世界で。
この世界を去った人たちが、
形のない世界へと還る前に、それに慣れるための場所でもあってさ。
実は、そちら側へ還るまでには、こんなふうに、
段階的な世界が存在しているのかも知れませんね。
間の世界にいたあの夏のあなたは、常に私たちの側に寄り添い続けながら、
此処にいるよって、伝え続けてくれていたのかも知れませんね。
こうして考えてみれば、
あなたを見送ってからの私が、時々見つける、あれ?と思う人たちは、
偶然、この瞳に映し出された、
この世界とそちら側の世界の間の世界にいる誰かなのかも知れません。
この世界では、毎日、どこかで新しい命が誕生し、
そして毎日、誰かがこの世界を去っています。
そうとは知らぬ間に、実は私たちは、
多くの、この世界とそちら側の世界の間の世界にいる人たちを、
見ているものなのかも知れませんね。
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