あなたへ
春の匂い。
夏の匂い。
秋の匂い。
冬の匂い。
季節には、季節の匂いがあることを、あなたは覚えていますか。
この世界には、様々な匂いがあるけれど、
季節の中でしか感じることの出来ない匂いの中で、
あの頃のあなたは、何を思い、何を感じていたでしょうか。
私は、季節が運んでくれる匂いが、とても好きだなと、
こんなふうに考えるようになったのは、
あなたを見送ってから、どれくらいが経ってからのことだっただろう。
この世界には、美しいものがたくさんあるけれど、
季節の匂いもまた、私にとっての美しいもの。
いつの頃からか私は、季節の匂いに対して、
こんなふうに捉えるようになりました。
あなたの隣を歩んでいたあの頃だって、確かに、
季節の匂いを感じながら、日々を歩んでいた筈なのに、
こうしてあの頃を振り返ってみれば、
あの頃の私にとってのそれは、特別な意味はなく、
私の鼻腔をただ、素通りするに過ぎないものであったような気がしています。
あの頃からの変わり行く感覚を見つめてみるのなら、
年齢を重ね行く中で、漸くそこに、特別な感情を向けられるようになったのだと、
こんなふうに捉えることも出来ますが、
こうして、
あの頃とは違った視点からこの世界を見つめられるようになったこともまた、
あなたからの贈り物だったのかも知れないと、
今の私には、こんなふうに思えてしまいます。
この世界に流れる時間に引き摺られながら歩んだ時間があって、
あの頃の私には理解の出来ない時間の経ち方を知って。
あなたを見送ってからの私は、
それまでの私が知らなかった様々な痛みを知ったけれど、
やがて、自分だけのペースで歩むやり方を見つけて、
ゆっくりとだけれど、ほんの少しずつ、前へと歩めるようになって。
ゆっくりと歩む中で、あなたの分まで、素敵なものを集めようと、
こんな視点を持つことが出来たから、私はこんなふうに、
自分の中を素通りしていたに過ぎなかったものに対しての、
美しさに気付けるようになったのかも知れないなって。
あなたは、私に、様々な痛みを教えた人。
でも同時に、どんなに忙しい日々の中を歩もうとも、
不意に立ち止まって、この世界に存在する美しいものを感じる生き方を、
私に教えてくれた人なのだと、私は思っています。
昨日から一変し、今日からまた、
私の日常は忙しない日常へと戻りましたが、
忙しない中で、春の匂いに、ふと立ち止まる瞬間を見つけました。
ねぇ、あなた。
この世界は、本当に美しいね。
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