拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

大切な人の手を離して歩むということ

あなたへ

 

昨夜の私は、前髪を切りました。

 

いつも通りに切れたことを確認してから寝支度へと移った筈でしたが、

濡れた髪を乾かして、鏡を見つめてみれば、

私が見つけたのは、切り残してしまった前髪でした。

 

長いままの前髪が残ってるいるなと、切り残した前髪を摘み上げれば、

不意に蘇ったのは、いつかのあなたの姿でした。

 

あっ!切れてないのが残ってた

ちょっと、こっちに来て

 

前髪を切ってくれたいつかのあなたは、

乾かしたばかりの私の前髪に、切り残しを見つけて、整えてくれましたっけ。

 

そうだ。あの時、私はなんだか嬉しかったのだと、

蘇った記憶と共に、あの時の私の気持ちが鮮明に蘇って。

 

あの時の私は、何故それが嬉しかったのかなど、

考えることもないままに、忙しない日常生活の中へと戻って行きましたが、

こうして改めて、あの日の私が感じた気持ちを反芻してみれば、

私は、いつでも手を抜かずに、

私の前髪を切ってくれていたことが、とても嬉しかったのだと思いました。

 

それは私にとって、あなたが私自身を大切にしてくれていることと、

同じ意味を持っていたのだと思います。

 

そうだった。

私の前髪を切ってくれる時のあなたって、いつでも繊細な何かを扱うかのように、

そっと前髪を掬って、とても丁寧に鋏を動かしていて。

 

不意に蘇った記憶は、あの頃のあなたの姿を私に鮮明に思い出させると、

胸の奥へと、また新たな痛みを刻み付けました。

 

あの夏から、先へ先へと歩めば歩む程に、

自分で前髪を切ることも、私にとっての当たり前になって行きましたが、

いつの頃のからか私は、無意識にも、

前髪を切ってくれていたあなたの姿の詳細を、

あまり思い出さないようにしていたのかも知れません。

 

だって、あなたがいないこの世界を歩み続けることは、

自分で前髪を切ることも、日常の中の当たり前に変えなければならないもの。

 

それなのに、いつの間にか、見ないようにしていた筈の記憶を僅かに思い出せば、

あなたの指が、僅かに私のおでこに当たるあの感覚や、

目を閉じた私の耳に届く、ゆっくりと鋏を動かす音までもが、鮮明に蘇って。

 

リアルな記憶は、

まるでほんの数分前に此処に流れていた時間であったかのように錯覚させると、

私を酷く感情的な気持ちにさせたのでした。

 

もう・・・

また逢いたくなっちゃったじゃん

 

小さく呟きながら、笑ってみたけれど、

胸の奥が訴える痛みが、和らぐことはないままに。

 

大切な人の手を離して歩むことは、とても苦しい。

 

それを知りながらも、それでも前に歩みたくなる私へと成長させてくれたのもまた、

あなたであるのだと、昨夜のあの時間は、もう一度、

私にとってのあなたという存在を、

しっかりと確かめる夜でもあったのかも知れません。

 

あなたは、今はまだ逢えない人なのだと自分を納得させたばかりだというのに、

不意に蘇った記憶は、何度でも、こうして私を寂しくさせるけれど、

私は何度でも前を向き直して、あの夏の続きをしっかりと歩んで行くから。

 

記憶の中にいるあなたに手を振って、前を向き直した昨夜の私は、

一晩ゆっくりと眠って、今日も精一杯、

今の私の目の前にある自分の人生を歩むことが出来たことを、

そちら側のあなたへ報告しておきたい思います。

 

 

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