拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

黒い冗談

あなたへ

 

そう。思えば、今年になってからです。

 

少しずつ、暑さを感じるようになってからの今年の私が、

時々見かけるような気がしているのは、カサを被った人です。

 

傘ではなくて、笠。

えっと。そう。例えば、

お地蔵さんも被っている笠、と言えば、あなたにも伝わるでしょうか。

 

笠を被って、自転車に乗っている人。

笠を被って、歩いている人。

 

今年に入ってからの私は、笠を被っている人を、何度くらい見かけただろう。

 

盆踊りであるとか、または、昔の畑仕事の風景写真。

そして、お地蔵さん。

 

笠、と聞けば、昔を連想してしまう私にとって、

この辺りの風景の中に溶け込み切れてはいないような気がするその姿に、

笠を被った人を見かける度に、

笠?笠を被っているの?と、

思わず毎度、二度見、三度見してしまうのですが、

異常ともされる暑さを感じられるこちら側の近年の流れによっての、

新たな流行り的なものでもあるのかも知れません。

 

笠を被った人を観察してみると、帽子よりも、影になる部分が多く、

そして、両手が空く点から考えてみれば、

日傘をさすよりも、便利だと言えるのでしょう。

 

強い日差しが苦手で、夏になると必ず、帽子を深く被っていたあなたには、

とても画期的なアイテムとなったのかも知れません。

 

もしも、あの夏の運命が違っていたのなら、今年のあなたは帽子を辞めて、

あの笠を被って仕事をしていたのかしらねと、

此処にいるあなたを思い描いてみたのは、

笠を被った人を見つけたのが、幾度目かになった日のことでした。

 

これは日陰になる部分も多いし、両手も使えるから、便利なんだよ

 

購入したばかりの笠を、楽しげに私に見せてくれるあなたを思い描いてみれば、

思わず、言ってみたくなってしまったのは、小さな悪戯心からのひと言でした。

 

なにそれ、お地蔵さんじゃん!

 

笠を被って見せたあなたを、有り難い存在と見立てて、

今頃の私は、別な意味であなたに手を合わせていたのかも知れないと、

悪戯心のひと言が、私にこんな視点を見つけさせるから、

思わず、少しだけ笑ってしまいました。

 

これは、我が家の中に密かに存在する、黒い冗談。

 

悪ノリをして、あの子と2人で、

あなたについての黒い冗談に笑ったのは、いつの頃のことだっただろう。

 

ひとしきり笑った後で、やがて互いに口を継ぐんだのは、

それが不謹慎な冗談であることなど、

本当は、誰よりも分かり切ったことだったからでした。

 

でもさ、お父さんは、

俺たちがこんなことを言っても、怒らないと思うよ

それどころか、今頃、きっと笑ってるよ

お父さんはさ、

俺たちがお父さんのことを話しながら泣いているよりも、

こんなふうに笑っていた方が、絶対に喜ぶと思うんだ

 

これは、あの日のあの子が、ポツリポツリと聞かせてくれた言葉ですが、

静かな沈黙の中、私も、あの子と同じことを考えていました。

 


たくさん泣いて、たくさん苦しんで。

そんな私たちだけが言っても良い特別な冗談。

 

悪ノリをして、初めて黒い冗談に笑ったあの日から、

あなたに関する黒い冗談は、私の中で、そのような位置付けとなって行きました。

 

だから私は、あの日のことを反省していません。

 

今日のこちらでは、朝から、とても綺麗な青空が広がりました。

夏によく似た日差しを浴びながら、

笠を被ったあなたの姿を思い描いて、笑ってしまった日のことを思い出していました。

 

私はきっとこれからも、時々にはこうして、

不意に見つけてしまった黒い冗談に笑いながら、

この人生を歩んで行くのでしょう。

 

もう二度と、触れることの出来なくなってしまったあなたの温もりを、

相変わらずに、何処かに探しながら。

 

 

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