拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

春からの贈り物

あなたへ


満開の桜も終わりの時を迎え、
ピンク色から、少しずつ、緑色へと景色が変わって来ました。


今年のこちらは、暖かくて天気の良い日が続き、
桜が咲く期間も長かったように思います。


毎年、この時期は、特に仕事が忙しかったあなた。


桜が咲いたから、今度、3人で見に行こうね


毎年、交わした約束は、一度も叶うことはなく、
家族で出掛ける前に、冷たい雨と風が、あっという間に、
ピンク色の景色を、緑色の景色へと変えてしまったのでした。


いつかの春に、
桜が咲く時期には雨が降るから、すぐに散ってしまうんだよと、
教えてくれましたね。


行けずじまいだった家族でのお花見。
今年だったら、叶えることができたのかも知れませんね。


私の通勤ルートには、桜のトンネルがあります。
駅から続く、とても混む道ですが、この時期だけは、なんだか得した気分です。


信号の待ち時間。
フロントガラスに落ちてきたピンク色の小さなハートが可愛くて、
思わず、空を見上げたのでした。


ねぇ、見て 可愛いでしょ?


あなたにも見せたかった、春からの小さな贈り物。


あなたも何処かで、見ていてくれたでしょうか。

 

 

 

反抗期おわりの宣言

あなたへ


近頃、あの子との外出をする機会が増えた私は、
あの子の大きな成長を感じました。


あの出来事は、あなたを見送り、
1年と半年程が経った頃のことでした。


それまでは、車での外出の時には、
当たり前のように、助手席に乗っていたあの子ですが、
その日は、突然に訪れました。


助手席は嫌だ
僕は、今日から、後部座席に乗るよ と。


突然のあの子の言葉に、少しショックを受けながらも、
これも成長のひとつなのだと思いました。


一緒に出掛けることが嫌なんじゃなくて、
助手席に座っているところを、友達に見られたくない
友達がいそうな場所で、一緒に歩くのも嫌だからね
友達も、みんな後部座席に乗っているんだよ


あの日のあの子は、そんな話をしてくれたのでした。


あれから、一緒に出掛ける時には、決まって、あの子は後部座席へ。
小さな頃から、よく喋るあの子は、大きくなっても、変わりませんでしたが、
そんなふうに、反抗期を思わせる成長を見せてくれたのでした。


そんな日々が続き、あの子の高校受験の日に、
車で会場まで送っていくと、駐車場で見かけたのは、
あの子と同じように、後部座席に座る、他の受験生たちでした。


中には、子供は後部座席に乗せるご家庭もあったと思いますが、
それにしても、助手席は、空席のまま、
私が見かけたほぼ全員の受験生が、後部座席へ。


そんな他の子の姿を確認しながら、あの子は、言ったのでした。


ほらね?みんな助手席には、座らないんだよ
だって、親の隣に座るのは、恥ずかしいよ と。


あれからも、相変わらず、一緒に出掛ける時には、後部座席に座っていたあの子。
空いた助手席も、
後ろから聞こえるあの子の声も、
正直に言うと、ちょっぴり寂しかったけれど、
同時に、あの子も、他の子と同じように成長しているのだと感じました。


そうして、あの子が高校生になると、生活が変わり、
あの子と一緒に出掛ける機会は、自然と減っていきました。

 


ここ数月程、あの子の用事で、一緒に出掛ける機会が、とても増えました。
いつの間にか、
何事もなかったかのように、また助手席へ座るようになっていたあの子。


先日、助手席に座り、シートベルトを締めながら、


一時期、俺、後部座席に座ってたよね
あの頃は、何だったんだろう
あれは、反抗期だよね
じゃぁ、反抗期、終わりました


なんて、あの子から、突然の反抗期おわりの宣言がありました。


あなたを見送り、前向きな気持ちになれず、
笑い方すら、忘れてしまったあの夏。


ただ、息をして、
ただ、生きているだけだった私が、


全部見てから、そっちに逝くね
あの子が、どんなことで悩んで
どんなふうに、成長して
どんな道を選ぶのか
どんな大人になるのか
あなたの分まで、全部、見てからにするよ
だから、当分、そっちには、逝けそうにないよ


ひとりで泣きながら、
あなたに、そう報告したのは、
あの子の小さな成長を見つけた頃でしたね。


あなたが見ることのできなかった、あの子の第二次反抗期。


まさか、
あの子自身から、反抗期が終わったことを、発表されるとは思いませんでした。


いつでも、想像とは違うかたちで成長を見せてくれるあの子。
これから先も、きっと、想像もしていなかったようなかたちで、
成長していく姿を見せてくれるのでしょう。


そんなあの子の姿。
あなたの分まで、ちゃんと、覚えておくからね。

 

 

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初めての電話

あなたへ


初めて、あなたが電話をくれた時の、
あなたの第一声を、今でもよく覚えています。


もしもし
俺ですけど
あっ
俺じゃ分からないかな


初めて、あなたが電話をくれた日は、
なんだか少し、緊張している様子で電話をくれたのでした。


分からないわけない。
だって、あの時の私は、もう、あなたしか見えていなかったもの。


今週末、空いてる?
良かったら、どこか行かない?
考えてみて


あの時のあなたったら、
空けておくよの私の言葉も聞かずに、早々に
電話を切ってしまうんだもの。


あれから、少しずつ、お互いの距離を縮めて、
あなたは、いつの間にか、当たり前のように、
俺ですけどって、電話をくれるようになりました。


私は、なんだか、それが嬉しくて、
あなたの
俺ですけどって、言葉を聞く度に、
電話のこちら側で、はにかんでいたのでした。


あれから、もうすぐ20年が経ちますが、
あの頃のあなたは、色褪せることなく、
私の中に、
鮮やかに、甦ります。


あなたと出会い、何度もあなたに恋をしましたが、
春の暖かな光に包まれながら、
今日も、あなたを想い、
胸が切なくなりました。

 

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