拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

あの子が巣立ってからの1週間

あなたへ

 

あの子が此処から巣立ってから、1週間が経ちましたが、

この1週間、ほぼ毎日、私のところに来るのは、

あの子からの電話です。

 

これ、どうすればいいの?

これってどうやるの?

これなんだけどさぁ

 

巣立って行くあの子が困らないようにと、此処にいる間に、

大体のことは教えたつもりでいましたが、

巣立たせてみなければ、

あの子が何を知っていて、何を知らないのかが、

明確には分からないものなのかも知れません。

そして、あの子自身もまた、

それらを明確に知る術はなかったとも言えるのでしょう。

 

俺、何も知らないんだなって思ったよ

 

幾番目かのあの子からの電話では、

こんな声が聞こえて来ました。

 

それでいいんだよ

ひとつずつ、ゆっくりと覚えていきなさいと、

今の私には、こんなふうに遠くから応援することしか出来なくなってしまいましたが、

こうして、離れた場所からあの子の成長を見守る時間も大切に、

この1週間を歩んで来ました。

 

ほぼ連日掛かってくる電話からは、

あの子の成長を感じられる場面もありました。

 

分からないことも、まだまだ多いあの子だけれど、

試行錯誤しながら、

やがてはしっかりとした足取りへと変わっていくのでしょう。

 

これからのあの子が、

どんなふうに成長して行くのかが、とても楽しみですね。

 

気が付けば、今日で3月が終わりを迎えます。

 

慌ただしく過ぎ去ったこの3月の中に詰まった大切な思い出を、

もう一度、抱き締めて、

明日から始まる4月からの私も、

しっかりと歩んで行きたいと思います。

 

 

 

あの子と2人で泣いた夜

あなたへ

 

ねぇ、あなた。

もしも、あの日のあの子の言葉を、

あなたと一緒に聞くことが出来たのなら、

あなたは、どんな顔をしたのだろう。

 

これまでに見たこともないような顔で笑ったのでしょうか。

それとも、

あの子の言葉を噛み締めながら、そっと涙を流したのかな。

 

今日は、私の誕生日の夜に過ごしたあの子との時間を、

あなたにも話してみたいと思います。

 

あの日の翌日には、

朝から出掛ける予定になっていたあの子。

 

私の誕生日は、巣立ち前のあの子と、

ゆっくりと話をする最後のタイミングでもありました。

 

食事へと出掛けた帰り道、車の中で、あの子に伝えようと決めていたのは、

私たちの元に生まれて来てくれてありがとうという気持ちでした。

 

それは、これまでにも伝えて来た言葉でしたが、

改めて、巣立って行くあの子に伝えたかった言葉。

 

巣立つ間際では、きっと泣いてしまうから、

あの時が、笑顔で伝えられる絶好のタイミングだと思いました。

 

私たちの元に生まれて来てくれて、ありがとう

キミが生まれて来てくれたから、これまで、本当に楽しかったよ

 

僅かに胸の奥がギュッと掴まれながらも、

あなたの分まで、笑顔で伝えることが出来たのは、やはり、

おやすみ

また明日って、

いつも通りの挨拶が出来る夜であったからなのだと思います。

 

やがて帰宅した私たちは、明日のために早目に休むつもりでいましたが、

なかなかおやすみの挨拶を出来ないままに、お喋りは続いていきました。

 

それは、この時間が、ゆっくりと話せる最後の時間であると、

言葉にはしないままに、

お互いに同じことを考えていたからなのかも知れません。

 

あの日の夜は、他愛もないお喋りから、やがて、

これまでのことを様々に振り返る流れへと切り替わっていきました。

 

あなたと家族3人で過ごした日々のこと。

それから、

あなたを見送ってからの私たち、2人だけの時間。

 

あんなこともあったね

こんなこともあったねって、

楽しかった時間を振り返りながら、先に涙を流したのは、あの子の方でした。

あぁ、もう、駄目だ って。

 

食事からの帰り道では、

ちゃんと笑顔で、想いを伝えることが出来たのに、

あの子が涙を流すから、私も堪えきれずに、あの子と一緒に涙を流しました。

 

お布団の中、ひとり、どんなに涙を流しても、

あの子の前では絶対に泣かないと決めていた私と同じように、

あの子もまた、同じ気持ちで日々を過ごしていたことを、

あの子が見せた涙から、計り知ることが出来ました。

 

だって、巣立ちは永遠のお別れではないもの。

生きていれば、いつだってまた逢える。

 

互いにそのことには触れないままに、

巣立ちの瞬間まで、笑顔のままで過ごそうと決めていたのは、

あの子も私も同じだったのかも知れません。

 

それなのに、一度溢れ出ててしまった涙は、何度拭っても、

互いに見せずにいた本当の想いを、

もう、隠してはくれなかったのです。

 

あの日の夜の私たちは、2人で泣いて、

涙を拭って、笑ったかと思えば、また泣いて。

 

早く休まなきゃね

 

なんて言いながらも、いつまで経っても、

互いにおやすみの挨拶が出来ないままに、

明け方近くまで、私たちのお喋りは続いていきました。

 

次の朝には、2人共、寝不足だったけれど、

本当に、良い時間を過ごせたと思います。

 

あの夜にね、

涙を拭いたあの子が言ってくれました。

 

私たちのことを、世界一の親だって。

 

ねぇ、あなた。

あの頃の私たちには、想像もつきませんでしたね。

私たちが、あの子の世界一の親になれるだなんてさ。

 

もしも、あの日のあの子の言葉を、

あなたと一緒に聞くことが出来たのなら、

あなたは、どんな顔であの子の言葉を受け取ったのだろう。

 

ねぇ、あなた。嬉しいね。

あの子の親になることが出来て、本当に良かったね。

 

明け方近くまで語り合ったあの日の時間は、

こうして改めて振り返ってみると、

巣立ち前のあの子と、

しっかりと絆を結び直すような時間でもあったように感じています。

 

2人で涙を流すことが出来たからこそ、

これまでよりも、

強固に絆を結び直すことが出来たとも言えるのでしょう。

 

あなたよりも、5つの歳を重ねて間も無くの私に見えた景色は、

掛け替えのない素敵な景色でした。

 

 

桜の景色を眺めながら

あなたへ

 

気が付けば、桜の花が開き始めたと、

あなたへこんな報告をしたのは、

私の誕生日の日のことでした。

 

こうして改めて振り返ってみると、

あの頃の私の視界には、

あの子の笑顔しか入っていなかったのかも知れません。

 

あの子が巣立ち、改めて、此処に見える景色を眺めてみれば、

満開の時期を僅かに過ぎて、

少しずつ緑色へと変わりゆく桜の景色でした。

 

今日の私は、近所の公園へと立ち寄って、

桜の景色を眺めながら、

ゆっくりと、巣立ち前のあの子との時間を振り返りました。

 

巣立ちの日までを、あの子と2人、

バタバタと忙しない時間を過ごしましたが、

慌ただしく過ぎ行く時間の中には、

あの子との大切な思い出ばかりが詰まって行きました。

 

今の私の胸の中には、

あなたにも話したいことが、山のように詰まっています。

 

あの子と2人、バタバタと過ごした日々は、

あなたへの手紙を綴る時間もなく過ぎて行ったけれど、

これから少しずつ、

巣立ち前のあの子と過ごした私が、

どんなに素敵な時間を過ごしていたのかを、

あなたにも伝えていきたいなと思っています。