あなたへ
グミの類をよく食べていたあなた。
色々な味が楽しめるクマの形のグミは、
そんなあなたのお気に入りのお菓子のうちのひとつでした。
あなたの場所へとお供えした、クマの形のグミを見つめながら、
今回、このグミをお供えするまでに至った、
ちょっと不思議な流れを思い出していました。
お盆のお迎えの時には、
必ずこのクマの形のグミをお供えする我が家ですが、
それ以外ではあなたへお供えすることがなくなっていったのは、
誰も食べる人がいないからという理由からでした。
この世界は形のある世界。
そして、今のあなたがいる世界は、きっと形のない世界。
あなたへお供え物したものは、
やがて私たちが頂くこととなりますが、
グミの類に関しては、いつまでも残り続けることになってしまうのです。
いつまでも、棚の片隅に残り続けるグミを見るのもなんだか忍びない。
かと言って、あの子も私も、グミには手が伸びない。
そんな理由から、グミの類をお供えする回数は少しずつ減って行き、
お盆のお迎えの時にだけという今の形へと整っていきました。
あの頃は、家族3人でグミを食べていたよね?
なんてあなたの声が聞こえてきそうですが、
あの頃の私は、3人でグミを食べるあの時間が好きでした。
だって、とても楽しかったもの。
こうして振り返ってみれば、
何を食べるか、ではなく、誰と食べるか、だったのだと思います。
あの子とは、グミに関する話をしたことは一度もありませんが、
成長と共に、或いは、あの子もまた、私と同じだったのかも知れません。
そんな私の中でのグミに対する印象が突然に変わったのは、
先日、人から頂いたグミを食べたことがきっかけでした。
この人生の中で、特に好んだことのなかったお菓子であったはずなのに、
あの日の私は違ったのです。
なんだか良い。
とても良い。
この食感が良い。
これは、グミに対するあの日の私の印象です。
思えばグミを食べながら、
こんな気持ちを感じたのは初めてのことでした。
そうして気が付けば、あの日の私は、一袋を食べ切ってしまっていたのでした。
あなたが好きだったから、グミをお供えしたい。
いやでも、その後って、誰が食べるの?
これは、お菓子売り場を彷徨きながら、時々私の中で起こった葛藤でした。
ですが今回、グミに対する印象が大きく変わったことがきっかけとなり、
迷うことなく、
あなたのお気に入りだったグミを購入することが出来ました。
あなたの場所へお供えしたクマの形のグミを改めて見つめてみれば、
実はそこには、あなたの力が働いていたのではないかと、
そんな気がしてしまいます。
あなたを見送ってからの私は、
幾つくらいの不思議な出来事を見つけてきただろう。
それはいつでも偶然を装った形でやって来るけれど、
後から考えてみれば、
とてもよく出来たストーリーが展開されていて。
マイブームだったキャラメルは、
もはや我が家の常備品へと変わり、あなたの場所へのお供え頻度も、
全く変わることなく続いていますが、
もしかしたらあなたは、
嬉々としてあなたにキャラメルをお供えする私を見つめながら、
ずっと訴えていたのかも知れませんね。
俺、グミが食べたい
ねぇ、グミ買ってきてよって。
だって、そうでなければ、
大きいサイズの容器に入ったこのグミは選ばなかったはずだもの。
私はきっと、よく出来たストーリーの中で、
密かにあなた色に染められたのでしょう。
グミの類は、唯一、あまり好まなかったお菓子であった筈なのに、
こんなふうに突然に、好きなお菓子へと変わるだなんてね。
なんだかとても不思議ですが、
これからは、様々な種類のグミも、一緒に楽しみましょうね。