emi's fantasy 私がいない世界
www.emiblog8.com 私のこと、看取ってね は?嫌だよ 彼を見送ってからの私は、 あの頃の2人の、 こんな他愛もないやり取りを、何度思い出しただろう。 あの頃の私は、 彼なら、私が側にいなくても大丈夫だと、 本気でそんなふうに考えていた。 物知りで、聡…
四十九日の法要を迎える前日、 私は、夢の中に入るという技術を習得した。 彼らに伝えたいことは、たくさんある。 何から伝えればいい? ずっと、幸せだったよ 私と結婚してくれて、ありがとう 愛してる あなたなら、きっと大丈夫 生まれて来てくれて、あり…
彼は、仕事へ復帰し、 あの子も夏休みが終わり、学校が始まった。 私だけが此処にいないままに、彼らは、 少しずつ、日常生活に戻りつつある。 私に、死後のイロハを教えてくれたのは、 花火大会でお会いした、お義父さんだった。 肉体を持たない今、私は、…
花火大会の翌日、私たちは、我が家へ帰って来た。 間も無く、お盆が明ける。 今は、深夜の時間帯。 とても疲れていたのだろう。彼は、テレビの前で眠ってしまった。 『こんなに痩せちゃって。目の下に、クマできてるよ。ごめんね。』 随分とやつれてしまった…
突然、誰かに肩を叩かれ、驚きながら振り返ると、 そこには、 1年半前に亡くなった彼の父親が立っていた。 私は、驚いて、思わず悲鳴を上げてしまった。 『な、な、何で?お義父さん! あっ、あの、ご無沙汰しております。』 私はきっと、これまでにしたこと…
告別式を終えると、そのままお盆に入った。 漸く、彼らは休むことが出来る。 明日は、彼の実家の地域で行われる花火大会だ。 「今年も来たら?気分転換にもなるかも知れないしさ。」 遠慮がちに、彼の家族が声を掛ける。 少し迷った顔をした彼は、あの子の顔…
粛々と、式が進行する。 「最後のお別れです。」 こんな言葉と共に、彼とあの子を始めに、 参列してくれた皆が、私の棺の中にお花を入れてくれた。 私の棺の中は、ピンク色のお花で一杯になった。 皆がお花を入れ終えると、 私の胸元に、彼とあの子から、そ…
「告別式の当日には、 故人様が使っていたお茶碗に、ご飯を山盛りにしてきてください。 それから、お箸、湯呑み、コップ。 こちらの粉を使って、団子を作って持って来て下さいね。 数は、地域の習慣などでも異なりますが、一般的には、6個とされています。 …
この姿になってから、私が声を上げて泣いたのは、 自分が息を引き取った、あの日の夜だけだ。 あの日の夜に、テレビから聴こえてきたのは、 あの子が好きなアニメの主題歌だった。 あの日は、このアニメの映画公開日だった。 静かに流れる音楽も、歌詞も、 …
意味もなく、家の中をウロウロする彼に、 私は何度、同じ言葉を掛けただろう。 『ねぇ、あなた、ご飯食べて?』 何度もそう問いかけているのに、彼は全然話を聞いてくれないの。 あの子にだけご飯を食べさせる彼は、何をするでもなく落ち着かない。 『ねえ!…
疲れた 眠い お腹が空いた そんな感情すら残ってはいない。 ただ、もし出来れば、少しだけ、そっとしておいて欲しい。 もう何も考えたくないし、誰とも話したくない。 そんな気持ちを、胸の奥へと閉じ込めて、 告別式までは、どうにか乗り越えなければならな…
私たちは今、葬儀社にいる。 自分の告別式の打ち合わせに参加するだなんて、 なんとも奇妙だけれど、 彼とあの子が並んで座るその隣に、一応、私も座ってみた。 私の前にだけ、お茶がないこの光景に、 私は、もう、この世のものではなくなってしまったのだと…
『愛する夫と息子を遺して、こんなことになるなんて! なんてことなの?』 まずは叫んでみた。 こんなに大声で叫んでいるのに、誰も見向きもしない。 夫と息子に看取られて、私は、たった今、息を引き取った。 半透明の自分の手のひらを見つめて、小さく溜息…
ご臨終です その言葉を合図に 彼らは たくさんの涙を流した まだ温もりが残っているであろう手を握り まだ血色の良い頬に触れ まるで その感覚を体に刻みつけるかのように 彼らは私の肉体から手を離そうとはしなかった そんな2人の側で 私はただ 彼らを見つ…