拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

あなたという存在

あなたへ


あなたはいつでも、私を成長させてくれる人でした。


あなたは、とても優しかったけれど、時々、厳しかった。


時々、叱られましたね。


あなたが私を、強く叱る時は、私が自信を持てずにいる時でした。
踏み出したい一歩があるのに、怖くて躊躇している時。


私よりも私のことをよく知っているあなたの言葉は、
思わず、反発したくなるほどに鋭く、ストレートで、
いつでも、核心をついていました。


そんなあなたの言葉をすぐには認められなかった私は、
あなたの言葉から逃げるように、言い返しては、
喧嘩になることもありましたね。


核心をついたあなたの言葉が、とても痛かった。


時間を掛けて、
前に進むことを決心した時には、
絶対に大丈夫だよと強く背中を押してくれました。


あなたは、
後に分かる厳しさを持った人でした。


あの夏にあなたを置いたまま、
前に進まなければならなかった私の側には、
あなたが遺してくれた言葉たちが、
今でも、ひとつも色褪せる事なく、側に寄り添い、
私を安心させ、
時に私を励まし、時々、叱られます。


いつでも、私の4歩先を見ていたあなた。


私は、あなたの年齢に追いついてしまったけれど、
やっぱり、なんだか、あなたには敵わなくて、
あなたの言葉は、あの頃のまま、
いつでも、私の見る先を知っている気がします。


きっと、私は、これからも、
あの頃のあなたから、
たくさんのことを学びながら、生きて行くのでしょう。


あなたは何処にいても、私を成長させ続けてくれる人。


あなたは、なんだか、
とても不思議な人ですね。

 

 

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小さな出来事

あなたへ


旅行に行ってきたの
これ、良かったらみんなで食べてね


先日、職場の先輩から、お菓子を頂きました。


何処へ行ってきたんですか?
いいですね
楽しかったですか?
旅行の様子を聞きながら、皆で談笑の中、先輩が言いました。


オバタリアンだけの楽しい旅行よって。


「オバタリアン」


数十年振りに聞いた、それは、
私がまだ、子供の頃に流行った言葉。


今、思えば失礼な話ですが、
当時は、母親程の年代の方が集まって井戸端会議をしている様子を見ては、
友達と、こっそり、
オバタリアンと笑ったものでした。


とても懐かしい響きを不意に耳にした私は、
込み上げる笑いを必死で抑え、思わず、下を向いてしまいました。


きっと、あの子が知らない言葉。


あの子には、なんとなく話すタイミングがないまま、
胸の奥へと、しまったつもりでしたが、
あの日の、ちょっと笑っちゃう出来事は、頭から離れないまま、
ひとりでに可笑しさが込み上げます。


もしも、あなたにこんな話をしたのなら、
あなたはきっと、
私を指差し、オバタリアンなんて笑うのでしょう。


そんなこと言ったら、あなただって、
・・・
オジタリアン


そんな、どうでもいいやり取りをしながら、
私たちは、どんなふうに笑い合ったのでしょうか。


日々の忙しさに埋もれてしまいそうな、
日常で見つけた、ほんの小さな出来事を、
1日の終わりに話し合いながら、
あの頃の私たちは、
いつでも、小さな幸せの中で、笑っていましたね。

 

 

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忍者の巻物

あなたへ


大きくなったら、忍者になりたい


あの子が初めて見つけた将来の夢を、
あなたは覚えていますか。


あれは、あの子がまだ、幼稚園へ上がる前のことでした。


たまたまテレビで見た忍者に憧れて、
大きくなったら、僕も忍者になりたい
そう夢見たあの子。


あの頃のあの子からは、
毎日のように、折り紙で手裏剣を作ってほしいと、頼まれましたっけ。
何処へ行く時も、
折り紙で作った手裏剣をポケットに入れて、お出掛けしたのでした。


やがて、幼稚園へ入園した、ある日のこと。


幼稚園からのお便りをクルクルに丸めて、大切そうに手に持ち、
幼稚園バスから降りてきたあの子。


これはね、幼稚園からのお便りだけど、
忍者の巻物にもなるんだよ
これがあれば、壁抜けの術が出来るんだよ


興奮気味に、こんな話をしてくれました。


そうして、自宅に帰ると早々に、
見ててね
そう言って、お便りで作った巻物を口に加えると、
止めようかどうしようかと迷う私をよそに、
勢いよく、襖に突進したあの子。


あの子の体は、襖をすり抜けることなく、
当然のごとく、思いきり、後ろに転がったのでした。


え?なんで壁抜けの術が使えないの?


痛そうな顔をしながらも、
何故、壁抜けの術が使えなかったのかの方が、重要だったあの子は、
泣くこともせず、不思議そうに巻物と襖を交互に見つめたのでした。


仕事から帰ったあなたへ、その日の出来事を話すと、
あなたは笑って、あの子に言いましたね。
修行が足りないなって。


大きくなったら、忍者になりたい
その気持ちは、揺らぐことなく、
あの子は、その夢を追い続けましたね。


あなたがお休みの日には、あなたと一緒に、忍者になるための特訓をしました。


分身の術が使えるようになるために、早く走る特訓
塀や屋根まで飛べるように、高くジャンプをする特訓


あの頃のあの子の得意技は、忍び足の術。
いつの間にか後ろに立つあの子に、
何度、驚かされたことでしょうか。


幼稚園から帰ったあの子は、
あなたがいなくても、
忍者になるための自主練習を欠かさなかったのでした。

 


先日、あの子から手渡された、
皺くちゃになった学校からのお便りを眺めながら、
12年前、幼稚園からのお便りを、
大切そうに持って帰ってきた、幼いあの子のことを思い出していました。


まだ小さく可愛らしかった頃の、あの子の記憶。
あなたは、ちゃんとそちら側へ持って行ってくれたでしょうか。