拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

不思議なご縁

あなたへ

 

名前も、住んでいる場所も知らないし、

言葉すら交わしたこともないけれど、一方的に知っている人。

或いは、互いにその存在を認識し合いながらも、

互いについてのことは、何ひとつ知らない人。

 

例えばこんな感じの密かに知っている人は、

もしかしたら、あなたにも1人くらいはいたのかも知れません。

 

あっ、あの人、知ってる

きっとあれからも、元気にしていたんだね

 

あれ?またあの人だ

今日も元気そうだな

 

外出途中の信号待ち。

何気なく通り行く歩行者を眺める私の目に、

最近よく止まるような気がするのは、密かに知っている人でした。

 

偶然見かけた密かに知っている人を見つめながら、

とても懐かしい気持ちを感じていたのは、

私が彼をよく見かけていたのが、まだ高校生の頃だったからでした。

 

彼とは、学校へ向かう時にも、帰宅途中にも、

よくすれ違っていました。

 

毎日、同じような時間に同じ道を通れば、

もっと様々な顔を覚えられそうな気もしますが、

何故だか彼ほどによくすれ違う人は、他には誰もいませんでした。

 

彼はきっと、いつでもご機嫌な人。

私が彼を見かける時には、

大体いつも、鼻歌を歌いながら歩いていました。

 

いつも私が知らない歌を歌っていたことがとても印象的で、

特に、言葉を交わしたこともなかったけれど、

今日も、楽しそうだなって、そんなふうに思いながら、

ただすれ違うだけの関係でした。

 

彼の姿勢や体型、そして、顔の雰囲気からは、

あれからの月日をそれほどに感じさせなかったのは、

彼が健康的な毎日を過ごして来たからなのかも知れません。

彼の髪の色だけが、

互いにどれだけの時間を過ごして来たのかを知らせてくれたのでした。

 

自転車が主な移動手段だった私から、

車が主な移動手段へと変わった私には、

もう、彼の鼻歌は聞こえませんでしたが、

彼はもしかしたら、

あの頃のように、鼻歌を歌いながら歩いていたのかも知れません。

それはきっと、私が知らない歌だったのでしょう。

 

高校の卒業を機に、

彼の鼻歌が聞こえる日常生活からも卒業しましたが、

私はあれからもずっと、この地で暮らして来ました。

それにも関わらず、これまで一度として、見かけることはなかった彼の姿を、

何故だかここ最近、よく見かけるようになったような気がします。

 

不思議なもので、決まった時間に、

同じ場所を通っているわけでもないにも関わらずです。

 

白杖を持った彼はきっと、私の存在すら知らないのでしょう。

一方的に知っている人ではありますが、

彼とは、ある種の不思議なご縁のようなものがあるのかも知れないなって、

ふと、そんな気がしてしまいました。

 

この世界にはきっと、様々な種類のご縁があって、

密かに知っている人、という括りの間柄であっても、

特別なご縁というものが存在するのかも知れませんね。

 

 

 

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