拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

食欲の大波

あなたへ

 

話に聞いていた男の子のよく食べる時期。

あの子にも、そんな時期がやって来たのは、

昨年の冬の頃のことでした。

 

あの頃の私は、

これが、先輩の言っていた男の子の食欲というものか

などと、とても感心しながら、

たくさん食べるあの子を眺めたのでした。

 

非常にたくさん食べる時期と、たくさん食べる時期。

あれからのあの子の食欲には、そんなふうに、波がありました。

 

波の水準は高く、

たくさん食べることには変わりありませんでしたが、

食べても食べても、まだまだ足りない

こんな食欲旺盛過ぎる波が、度々、訪れたのでした。

 

男性向けの2段のお弁当箱。

ご飯の段には、出来るだけ、たくさんご飯を詰めて、

おかずの段には、はみ出んばかりにおかずを詰め込んで。

それから、おにぎりや、お菓子。

 

これは、あの子の食欲が旺盛になった頃からの、

お弁当のセットでした。

 

あの子がお腹を空かせないようにと、たくさん持たせたつもりでも、

全然足りなかった なんて、

校内でお買い物をすることもしばしば。

 

このスタイルは、

専門学校へ通うようになってからも変わりませんでしたが、

突然に、お弁当箱のご飯の量を減らして欲しいと言われたのは、

あの子が、専門学校生活に慣れ始めた頃のことでした。

 

朝ごはんをあまり食べないあの子にとって、

お弁当の他に持たせるおにぎりは、朝ごはんのようなもの。

 

おにぎりは、これまで通りに作って欲しいけれど、

お弁当箱のご飯の量を減らして欲しいと、

あの日のあの子から、こんなリクエストがあったのでした。

 

ここ数ヶ月のあの子の食欲の波は、

これまでにないほどに落ち着きを見せ、

それは、

たくさん食べる時期の終わりの時のようにも感じました。

 

たくさん食べる時期を過ぎ、

また少し、大人へと近づいたのかなって。

 

料理が得意か苦手かと聞かれれば、苦手。

料理が好きか嫌いかと聞かれれば、嫌い。

 

どんなに料理のレパートリーが増えようとも、

こう即答する私は、ずっと変わらないはずなのに、

随分と食事の量が減ったあの子の姿に、

寂しさを見つけたのは、いつのことだったでしょうか。

 

もう食べないの?

 

うん、ご馳走様

 

こんな会話が、日常へと戻って来ましたが、

突然に、あの子の旺盛な食欲の波が新たに訪れたのは、

先日のことでした。

 

それも、これまでよりも、非常によく食べる、

とても大きな食欲の波です。

 

お昼ご飯、足りなくて、カップラーメンを買ったよ

 

これは、先日のあの子の言葉。

 

ご飯の量を、多めへと戻したお弁当と、

大きなおにぎりを2つ持たせた日のことでした。

 

近頃の私は、

毎日のあの子の食事のことで、頭がいっぱいです。

 

これ、おかわりある?

 

あの子のこんな言葉に、

私は、とても、ウキウキとしてしまうのです。

 

料理は、苦手だし、好きではない。

こんな私のはずでしたが、

此処に戻って来た、あの子の食欲との戦いの日々を、楽しみながら、

気が付いてしまいました。

 

私は、あの子のために料理をすることが、

好きだということを。

 

きっとね、いつの日か、あの子の旺盛な食欲の波にも、

本当の終わりの時が来るのだと思います。

 

それはきっと、

お弁当のご飯の量を減らして欲しいと言われた日のように、

突然にやって来るのでしょう。

 

あの頃は、あんなにたくさん食べていたのにねって、

いつの日か、今のあの子の姿を、

懐かしく思い出す日が来るのでしょう。

 

その頃のあの子は、

どんなあの子になっているのでしょうか。

 

今のこの時を振り返る未来を楽しみにしながら、

今は、あの子の食欲の大きな波を、

精一杯、楽しんでみたいと思います。

 

 

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天寿

あなたへ

 

交通事故に遭っても、

仕事中に、大怪我をしても、

一旦は、救急車で運ばれながらも、

必ず、その日に帰って来てくれたあなた。

 

ネックカラーを巻かれていたり、

包帯を巻かれていたり、

痛々しい姿ではありましたが、

夜になれば、私たちは、必ず、

家族3人、同じ屋根の下に揃いました。

 

打ち所が良かったですね

入院の必要はありませんよ

 

診察をして下さった先生方からは、毎回、こんな話がありましたね。

 

偶然に

奇跡的に

 

その度に聞こえたのは、こんな言葉でした。

 

その怪我が治るまでの間、生活の不自由さはありましたが、

家族3人の形は変わらずに、

私たちは、あなたの側で、安心して過ごすことが出来ました。

 

何があっても、

必ず、家に帰って来てくれたあなたのその姿に、

私はこっそりと、不死身の人と名を付けました。

 

あなたはきっと、守られて、生きていたんだろうな。

 

生まれた時から、人の寿命は決まっていて、

若くに亡くなったとしても、

天寿を全うしたことになる

 

こんな言葉を見つけたのは、先日のことでした。

 

あなたはきっと、最期の時まで、

大切に、大切に、守られて、

そうして静かに、此処から居なくなったんだね。

 

私よりも年下になってしまったあなた。

 

その短い人生を、精一杯、生きて、

立派に、天寿を全うしたんだね。

 

 

 

 

映画館

あなたへ

 

夏に、映画やるんだね

3人で、観に行こうね

 

こんな約束をしたのは、あの年のことでした。

 

いつの頃からか、

あの子が大好きなアニメの映画を、家族3人で観に行くことが、

恒例行事となっていた我が家ですが、

今後のあの子の成長を想像しながら、

3人で映画を観に行けるのは、きっと、これが最後かなって、

あの約束をした時の私は、

実は、そんなことを考えていました。

 

だから、その時間を大切に過ごしたいな って。

 

3人で、観に行こうね

 

あの頃の今度の約束は、叶うことがないままに、

あなたが息を引き取ったのは、

映画の公開日のことでした。

 

いつ観に行こうかって、具体的な約束をするはずだったのに、

私たちは、あの日、たくさんの涙を流しました。

 

あれから、告別式を終え、

あなたがいないままに、日常生活へと戻ると、

私は、あの子との今度の約束を叶えることにしました。

 

あの映画を観に行こうよ って。

 

映画を観に行った日のことを鮮明に思い出したのは、

先日、テレビで、あの映画が放送されたからでした。

 

テレビを観ながら、ふと思い出したのは、

あの子と2人で歩いた、映画館までの道のりでのこと。

 

あれは、丁度、横断歩道を渡っていた時のことでした。

 

横断歩道の向こう側にある鏡張りの建物に、

一瞬、映って見えた気がしたのは、

私のすぐ後ろを歩くあなたの姿。

 

驚きながら、慌てて後ろを振り返ったけれど、

そこには、誰もいないままに、

落胆して、前を向いたあの日の出来事は、

此処からいなくなってしまったあなたの姿を、

私はきっと、探していたのだと、

そんなふうに理由を付けて、

記憶の隅へと仕舞い込んでいた出来事でした。

 

あなたを見送ったあの年から、

時々起こる不思議な出来事を思い返してみれば、

あの日、一瞬見えた気がしたのは、

やはり、あなただったのではないかと、

今の私には、そんな気がしてなりません。

 

3人で、観に行こうね

 

今度の約束をしたあの頃のあなたも、きっと、

胸の奥で、私と同じことを考えていたのかも知れないな って。

 

思い返せば、

あの頃の私が思っていた通り、

あの子と一緒に映画館へ行ったのは、あれが最後となりました。

 

映画館までの道のりで、後ろを振り返った私は、

溢れそうな涙を堪えて、前を向いたけれど、

あなたは、私たちが思っていたよりも、

ずっと、側にいてくれたのでしょうか。

 

あの夏に聴こえた映画の主題歌が思い出させてくれたのは、

鏡の向こう側に見えた、家族3人の形。

 

あれが、あの日の私たちの、

本当の姿だったのかも知れませんね。

 

 

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