拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

刻み直した記憶

あなたへ

 

駅前のデパート、閉店したんだよ

 

そんなことを聞いたのは、職場での雑談からでした。

 

え?そうだったんですか

 

出来るだけ、平然を装いながら、雑談を続けた私でしたが、

本当は、胸の奥がチクチク痛かった。

 

そこは、あなたと出会い2番目の冬に、

一緒にペアリングを買いに行った場所。

 

思い返せば、

いつかの夏の始まりに、あなたと一緒に夏用品を買いに行ったのも、

あなたの誕生日が近づき、

あなたに内緒で、こっそりと、プレゼントを買いに行ったのも、

私たちの結婚が決まり、

結婚式で使う小物を揃えたのも、あのデパートでした。

 

当時、この辺りでは、一番の流行だったあのデパートは、

思い返してみれば、あなたとの思い出がたくさん詰まった場所でした。

 

私たちが結婚し、あの子が生まれ、

あのデパートとは反対方向に、更に便利な大型デパートが出来た頃から、

あのデパート方面へ行く機会が、なくなっていったんでした。

 

あのデパート、随分と人が入らなくなったらしいよ

 

あなたがこんなことを言っていたのは、いつ頃のことだったでしょうか。

 

デパートの閉店を知り、

あなたと過ごした時間を思い返していました。

 

あなたと手を繋いで歩いた店内

 

指輪が並ぶショーケースを眺めては、

どれも素敵だと笑ったこと

 

2人で測った指のサイズ

 

あなたが喜ぶ顔を思い浮かべながら、

長い時間を掛けて、あなたへのプレゼントを選んだこと

 

どんな結婚式になるだろうかと、

あなたと2人でワクワクしながら、店内を見て回ったこと

 

あのデパートの閉店をキッカケに、鮮明に思い出したあの頃の記憶を、

もう一度、この胸へと刻み直しました。

 

その手の感触も、

あなたの言葉も、

あなたが、どんな顔で笑っていたのかも。

 

あなたと過ごした思い出の場所は、

きっと、これからも少しずつ、形を変えて、

いつか、あなたが見たこともないような景色へと変わっていくのでしょう。

 

それでも、

どんなにこの景色が変わっていったとしても、

あなたと見た景色は、絶対に忘れないよ。

 

変わり行く景色をひとりで眺めながら、

私はずっと、あの頃の、

あなたと見た景色を想うのでしょう。

 

 

 

チグハグの靴

あなたへ

 

これからは、何でもひとりで出来なければならない

 

あなたを見送ってからの私は、

そう自分に言い聞かせて、

あなたに、たくさんのいい報告が出来るようにと、

出来るだけ前を向いて、これまでを過ごして来たつもりでした。

 

こんなことも出来るようになったよ

 

ひとつひとつ乗り越えては、

あなたにいい報告が出来ることが、なんだかとても、嬉しかった。

 

 

先日、あなたのお母さんが、のし餅を送ってくださいました。

 

お正月は、楽しかったね

これ、良かったら食べてね

 

そんなメッセージと共に届いた、のし餅。

 

あの子も私も、餅が好きだから、

とても、嬉しい気持ちで、

あなたのお母さんへ連絡したんでした。

 

餅を買う時は、切り分けてある餅を買う我が家。

餅を切り分ける機会があるのは、

あなたの実家から、のし餅を頂いた時でした。

 

こんなふうに、のし餅を頂くと、

 

危ないよ

俺が切ってあげる

 

そう言って、のし餅を小さく切り分けてくれたあなた。

 

その切り方は、いつでも丁寧に、

均等に揃えて、切ってくれたんでした。

そんなあなたの側で、

綺麗な長方形が積み重なっていくのを見るのが、とても好きでした。

 

あなたの切り方を真似て、

自分で、のし餅を切り分けるのは、これで、何度目だったでしょうか。

 

あなたを真似しているつもりでも、

私が切り分けるのし餅は、いつも歪な形。

それでも、

あなたがしてくれていたことが出来るようになった私は、満足し、

出来たよって、

あなたに報告しながら、

自分で切り分けた餅を供えることが出来て、なんだか、嬉しかった。

 

それなのに、

 

出来るようになったことは、たくさんあるけれど、

そうじゃないの

 

先日の私は、

包丁を置いて、小さく独り言。

 

苛立ちと、怒りと悲しみが入り混じったような、

なんとも言えない感情が込み上げてきた私は、

どうしようもなく胸が苦しくなって、

曲がって歪な形の、切掛けの餅をしばらくの間、眺めたんでした。

 

私は、出来ることが増えれば増えるほど、

あなたが遠く離れていても、

いつか寂しくなくなるんだと思っていたのかも知れません。

 

上手くは言えないけれど、

 

なんでも出来なければならない

 

その気持ちは、いつの間にか形を変えて、

私自身が成長することが出来れば、

遠く離れてしまったあなたをただ、

「静かに想う」ということだけが出来るようになるのだろうと、

そんなふうに考えるようになっていたのかも知れません。

 

それはきっと、私が前に進むための、

そして、自分で自分を守るために、

無意識に選んだ手段だったのでしょう。

 

いつどこで履き替えたのかも分からないまま、

私はいつからか、チグハグの靴を履いて、歩いて来てしまったようです。

 

何かが出来るようになっても、

寂しさは消えない

 

溢れ出す、あなたに逢いたい気持ちと共に、気付いてしまった私は、

歪な形の餅を眺めながら、涙を浮かべて、ひとりで作り笑い。

 

私は、これからもきっと、色々なことに挑戦しながら、

あなたにいい報告が出来る度に、嬉しい気持ちになるのでしょう。

 

あなたなら、どんなふうに喜んでくれるだろうか。

どんな笑顔で、どんな言葉を掛けてくれるだろうかと、

あの頃のあなたを、ひとつひとつ思い出しながら。

 

それでも、

どんなに多くのことが出来るようになっても、

この苦しさも、寂しさも、

きっと消えることはないのでしょう。

 

時に、立ち止まり、振り返っては、

また涙を流す日が来るのだと思います。

 

そして、いつかまた、

前に進むために、自分で自分を守るために、

いつの間にか、

チグハグの靴を履いて歩く時が来るのかも知れません。

 

不意にチグハグの靴を履いて歩いていた自分に気付き、

無意識に履き違えてしまった靴を見つめながら、

その時もまた、こうして肩を落とすのでしょう。

 

でも、どんなに苦しくても、

自分と向き合うことをやめたりしないよ。

 

その都度、見つけた自分をちゃんと認めて、

立ち止まって、

両方揃った靴に履き替えて、ちゃんとそこから出発するよ。

 

だって、いつかきっと、

今とは違う何処かに辿り着くはずだから。

 

その長い道のりの中、

きっとね、

素敵な景色が、たくさんあるはずだから。

 

 

 

コトバ -冬- 2019

冬の色を 覚えていますか

冬の音を 覚えていますか

冬の匂いを 覚えていますか

 

その瞳に映った景色

その耳で感じた季節

冬の澄んだ空気の匂いを

覚えていますか

 

一緒に過ごした二番目の冬

 

暗い夜道に逸れてしまわぬようにと

強く繋いだ心の距離

 

ふたりだけの歩幅を覚えていますか

 

隣を歩くあなたの横顔

繋いだその手をそっと握り返した

あなたと出会って二番目の冬

 

真剣にその想いを伝えてくれたこと

その眼差しも

近づいた心の距離も

 

私はよく覚えています

 

想い合うことがただ嬉しくて

離れていてもひとりじゃなかった

 

寄り添うことがただ嬉しかった

あの頃の私は

あなたに何を伝えることが出来たでしょうか