拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

あの子の部屋

あなたへ


あの子の部屋が少しずつ変わっていったのは、
あの子が高校生活にも慣れ、
暫くが経った頃からでした。


ここへ越して来たばかりの頃は、
こまめな掃除で、
自分の部屋をとても綺麗にしていたあの子ですが、
今では、足の踏み場がなく、汚部屋状態。


洗濯した洋服は、箪笥には仕舞わず、
クッションの上に山積みに。
使わなくなった教科書やノートは床に、散乱状態。


片付けたら?


後でやるよ


そんな会話を幾度となくしながら、
あの子の言う「後で」は来ないまま、
数ヶ月が経ちました。


プラモデルなどの繊細なものを飾っているあの子の部屋。
その棚の前に、山積みにされた洋服。


あの子の部屋を見る度に、
職場の先輩が仰っていた、
男の子はそんなものよ という言葉を思い出します。


思えば、小さな頃は、
もう少し几帳面だったはずですが、
これもまた、あの子の成長なのでしょうか。


もしもね、
地震が来ても、
色々なものがクッションになって、大切なものが壊れずに済むんだよ
これは、地震対策だから、このままでいいんだよ
お母さんの部屋も、あまり綺麗にしない方がいいよ


先日のあの子は、こんなことを言い出しました。


あの子の発想には、いつも笑わされますが、
なんだかちょっと、
将来が心配になる今日この頃です。

 

 

 

コトバ -その温もりを、そっと届けてくれる人へ-

私が悲しくなると
きっと遠くから飛んで来て
その温もりを
そっと私のところに届けてくれる人へ


その姿が見えなくても
そっと寄り添ってくれるところは
あの頃と何も変わらないね


苦しくて悲しい時
泣き出しそうな私を
優しく包んでくれるかのように
背中に感じる温かさは
遠くに逝ってしまったはずの
あなたの温度によく似ています


本当はね
知ってるよ


後ろからギュッてしてくれているんでしょ?
あの頃みたいに


あなたは今
どんなところにいますか


そこから
何が見えますか


空の彼方


あなたは其処で
何を想っていますか


寂しい思いはしていませんか
苦しい思いはしていませんか


どうしようもなく空虚で
ひとりでに溢れてくる涙に
小さなため息をついていませんか


元気ですか?


空を見上げては
同じ言葉を繰り返しながら
ほんの少しだけ心配しています


だって
あなたは
本当は寂しがり屋だから


俺のこと信じろ なんて
男らしくて
頼もしかったあなたは
いつでも強かったね


滅多に弱音を吐かない人だったけれど
強さの中に
時折 見せてくれた寂しがり屋のあなたの顔は
本当に愛おしかったよ


もしもあなたが
少しでも寂しい思いをしているのなら
思い出してください


私はここにいるよ


ずっと
あなたを想っています


もしも泣きたくなるほど
寂しくなったら


側においで


今度は私が
抱きしめてあげるから

 

 

 

あの子の感性

あなたへ


小さかったあの子が、
初めて写真を撮った日のことを覚えていますか。


今は、携帯電話のカメラで写真を撮ることが殆どですが、
あの頃は、どこへ行く時も、デジカメを持って出掛けていましたね。


写真を撮ることに興味を持ったあの子に、
初めてカメラを貸してあげたのは、
あの子が2才頃だったでしょうか。


あれは、あなたの実家へ遊びに行った日のことでした。


カメラを持った小さなあの子は、
嬉しそうに、
色々なところへレンズを向けては、シャッターを押したんでした。


小さなあの子目線の写真。


お花、風景、あなたの実家で飼っていた犬。


中でも、私たちの目を引いたのは、
近所のおじいちゃんの、後ろ姿の1枚。


その背中から、溢れる優しさや穏やかさ、
積み重ねてきた時間が感じ取れるような、とても素敵な写真でした。


あの子が眠った後で、
とてもいい写真だねと、
あなたとふたり、長い間、眺めながら、
あなたは、言いましたね。


あの子は、汚れていない純粋な心で、ものを見ているから、
こんなに素直な写真が撮れるんだよと。


きっと、あなたも私も、汚れているから、
こんなにいい写真を撮ることは出来ないんだね
なんて、ふたりで笑いましたっけ。


そして、あの時、あなたは、言ったんでした。


この感性を持ったまま、素直に大きくなってほしいと。


大人へと近づいたあの子とは、
小さな頃のように、一緒に出掛ける機会が随分と少なくなりましたが、
家に帰って来ると、
出先での写真を見せてくれます。


あの子は、あの頃のまま、
ずっと眺めていたくなるような、とてもいい写真を撮っています。


あなたとも、私とも似ていない、
あの子だけが持って生まれた感性は、あの頃のまま、
真っ直ぐに育ってくれたようです。


先日、あの子が見せてくれた、
夜の風景の写真は、特に私のお気に入りです。


今、この瞬間を存分に楽しみながら、
しっかりと前を見て、
懸命に生きているあの子の力強さを感じ取れるような、
とても素敵な1枚。


あなたにも、見せてあげたかった。