拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

雷の音

あなたへ


先日、こちらでは、
バケツをひっくり返したような雨と、大きな雷が鳴りました。


幸い、停電にはなりませんでしたが、
雷が苦手な私は、
家にひとり、大きな雷の音に怯えながら、
いつかの雷の夜を思い出していました。


あれは、あの子がまだ、小さかった頃。
お話が上手になった頃のあの子が、
あなたの実家に、ひとりでお泊まりをした夜のことでした。


あの夜も、突然の酷い雨と、大きな雷が鳴り響きました。
そうして、一帯が停電になり、
真っ暗闇の中、動くことも出来ずに、
携帯電話の光だけを頼りに、あなたの帰りを待っていた私の元へ、
あなたは、あの豪雨の中、帰って来てくれたのでした。


玄関から、私を呼ぶあなたの声に、安堵しながら、
ここにいるよ
心配して帰って来てくれたの?
って私の言葉に、
いや、別に なんて、
暗闇から聞こえた、冷静を装ったあなたの声。


あなたの顔は見えなくても、
あの時、私には、あなたの本音が見えていました。


だって、あの土砂降りの中、
何処かに車を停めて雨が止むのを待つことだって出来たのに、
そうはせずに、あなたは、帰って来てくれたもの。


真っ暗闇の中、私を呼ぶあなたの声は、心配そうだったもの。


言葉にしなくても、
あなたから溢れる優しさは、暗闇の中、私に、ちゃんと伝わっていました。


大きな雷の音を聞きながら、
いつかの夜の暗闇の中、
あなたに、密かに惚れ直した日のことを思い出していました。


照れ屋で、不器用だけれど、とても優しいあなた。
私は、そんなあなたのことが大好きです。


あの頃のあなたのことを思い出していたら、
いつの間にか、雷が何処か遠くに行っていました。


あの頃と同じ。
あの日、雷に怯えた私の側にいてくれたのは、やっぱりあなたでした。


また、あなたに助けてもらいましたね。
ありがとう。


小さくなった雷の音を聞きながら、
私は、また、あなたに惚れ直してしまいました。

 

 

 

 

大切な人を想う顔

あなたへ


仕事からの帰宅途中、信号待ちをしている時のことでした。
何気なく、歩道を歩く人を眺めていると、1人の人に目が止まりました。


携帯電話の画面を見て、
とても嬉しそうな顔で立ち止まったスーツ姿の若い男性でした。


あまりにも嬉しそうで、なんだか、とても幸せそうに見えたその顔に、
きっと、連絡が来た相手は、その方の大切な方なんだろうな なんて、
思わず、想像してしまいました。


だって、あんなに嬉しそうな顔をさせることが出来るのは、
世界で一番、大好きな人に違いないもの。


思わず笑みが溢れてしまう瞬間。


誰かのそんな瞬間を見つけることができた私の心の真ん中に、
小さく可愛らしい花が添えられたような、そんな気持ちになりました。


大切な人を想う顔。


それは、他の誰かを幸せな気持ちにすることが出来る顔なのかも知れませんね。


嬉しそうな顔のまま、ゆっくりと歩いて行くその姿に、
なんだか、こちらまで、温かい気持ちになりながら、
私は、結婚する前の私たちのことを考えていました。


私たちも、よく携帯電話で連絡を取り合いましたね。


今日も残業だよ
今、仕事終わったよ
他愛のないやり取り
デートの約束


逢いたいな
こんなメールをした時には、すぐに電話を掛けてくれましたっけ。
もうすぐ仕事が終わるから、迎えに行くよ って。


いつも通りの会社での朝の時間。
さっき、すれ違ったね
仕事、頑張ろうね
そんなメールが届いた朝は、
いつも以上に仕事が頑張れる気がしました。


離れていても、携帯電話が埋めてくれたあなたとの距離。


あなたから届く文字には、
いつでも、私を笑顔にする魔法が掛かっていました。


あなたからの文字を見ながら、
鏡を見たことはありませんが、
あなたも、私にあんな顔をさせてくれていたと思います。


私は、あなたにも、同じ顔をさせることが出来ていたでしょうか。


私が知らないあなたの顔。
想像してみたけれど、
なんだか、上手く想像することが出来ませんでした。


この手紙を読みながら、あなたは今、
どんな顔をしていますか?

 

 

 

 

20年の恋

あなたへ


私たちが出会った日のことを覚えていますか。


8月のとても暑い日。
私たちは、あの日、突然に出会いましたね。


偶然を装いながら、出会ったあの日は、
きっと、本当は必然だったのでしょう。


初めて会った日から、距離を感じることがなかったあなた。


出会った瞬間に感じた、この人だって感覚。
今でも、よく覚えています。


あなたとは、ドキドキするような恋の始まりではなく、
初めから、私の居場所を見つけたような、
なんだか、不思議な恋の始まりでした。


出会った頃から、私のことを何でも知っているように見えたあなたの隣で、
心地良さを感じながら、
きっとこれが、最後の恋になるのだろう なんて、
そんなことを考えていました。


ずっと
ずっと
側にいたい人


そんなあなたと出会ったあの夏から、20年が経ちました。


あの頃と変わらない空の下。


あれから、20年後の私は、
あなたと一緒に、何度も見上げた空の下、
あなたを想い、ひとり、空を見上げています。


きっと、あの夏から、
30年後の私も、
40年後の私も、
こうして、ひとり、空を見上げながら、
あの夏のあなたを思い出しては、
あなたに恋をし続けるのでしょう。


あの頃と変わらない空の向こう側、
あなたは、今、何を想っていますか。

 

 

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