あなたへ
えぇ?
嘘でしょ?
なんでなの?
これは、今朝の私の独り言です。
寝起きであるにも関わらず、取り扱い説明書を開き、
分かる範囲での点検をしてみましたが、
恐らくは、寿命なのではないかと察したのは、
これを購入した時期から、随分と長い期間が経っていたからでした。
ねぇ、あなた。
洗濯機が壊れました。
家電が壊れる時というのは、時に何の前触れもなくやって来ますが、
昨日まで元気に動いてくれていたことが嘘であるかのように、
我が家の洗濯機にも、突然にその時がやって来てしまったようです。
この洗濯機を、あなたと家族3人で買いに出掛けたのは、
いつのことだったでしょうか。
次の夏で、あなたをそちら側へ見送ってから、
10年を迎えると考えれば、
我が家の洗濯機はもう十分に、その役目を果たしてくれたのでしょう。
何をしても正常に作動しない洗濯機を見つめながら、
僅かに小さなため息が漏れ出てしまったけれど、
物事はいつでも、少しもズレることなく、
丁度良いタイミングで起こっているのかも知れません。
洗濯をする時間がなくてさ
洗濯物、持って来ちゃった
旅行に持って行きたいから、洗濯お願いします
これは、帰省当日のあの子の声でした。
あの日の私は、
あの子が持ち帰って来た大量の洗濯物に笑ってしまいましたが、
あの子からのお願いを当たり前に聞きながら、
此処に流れ始めた、私たちらしいかつての日常を、
ただ楽しんで過ごすことが出来たのは、
洗濯機が正常に動いてくれていたからだったと思うのです。
近所には、コインランドリーもありますし、
ほんの少し早くに洗濯機が壊れてしまっても、
何も大きな問題にはならなかったでしょうが、
何故だか私には、丁度良いタイミングで、
洗濯機が壊れたようにも感じています。
偶然であるかのように思えても、
そこにもまた、必然的なものが隠されているのかも知れませんね。
掃除機、テレビ、ドライヤー。
あなたと共に過ごしたあの頃から我が家に存在していた家電たちは、
ひとつ、またひとつと、その役目を終えて、
我が家の中からその存在がなくなって行きました。
またひとつ、
あの頃から存在していたものが我が家からなくなってしまうことは、
とても寂しいですが、
きっと、少し先の未来の私は、
新しい洗濯機を嬉々として使いながら、
また新たな視点から、あなたへの手紙を綴るのでしょう。