拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

親孝行

あなたへ

 

今日の私が、一瞬、

心穏やかでいられなくなったのは、

 

親よりも先に死んだら、地獄行き

 

こんな言葉を目にしたからでした。

 

大抵の嫌なことは我慢出来るけれど、

あなたのことだけは、我慢出来ないの。

 

その文字を見つめながら、

思わず想像したのは、

閻魔様の胸ぐらを掴んでいる私の姿でした。

 

親より先に死んだら地獄行き?

ふざけないで!

彼は生きようとしてた

それなのに、地獄って何?

ふざけんな!ってね。

 

でも、どうしてでしょうか。

 

次に思い浮かんだのは、

そんな私を、

 

随分、威勢がいいねぇ

 

なんて言いながら、

後ろで笑って見ているあなたの姿でした。

 

地獄?

俺は、そんなところにはいないよ

 

もしも、あなたの声が聞けるのなら、

きっと、そんなふうに笑うのでしょう。

 

うん。

知ってる。

理由は分からないけれど、でも、なんとなく分かるの。

そんなところに、あなたはいないってこと。

 

そもそも、閻魔様とか、地獄とか、そういうものも、

恐らく、ないのだろうって、私は考えています。

 

親よりも先に死んだら、地獄行き

 

それは、きっと、

親不孝だからという考え方からなのでしょう。

その考え方に、私は、納得が出来なかったのです。

 

私はね、生きた長さでは、それは測れないと思います。

 

精一杯、生きて、たくさん笑ったら、

それだけで、親孝行だよ。

 

だって、あなたのお母さんは、

あなたのことを、とても誇りに思っているもの。

 

あなたは、

立派に大人になって、お父さんになった姿を、

両親に、見せることが出来きましたね。

 

それは、充分な親孝行だったと思います。

 

小さかったあの子をあやすあなたの姿に、

あなたのお母さんは、私に言ったの。

 

あんなに子煩悩なお父さんになるとは思わなかったよって、

嬉しそうに。

 

我が子を亡くしたお母さんの気持ちは、

私には、想像することも出来ません。

 

でも、あなたのお母さんは、

あなたに対して、親不孝な息子だなんて、

思ったことなど、あるわけないの。

 

お母さんの中にあるのは、

ずっと変わらぬ、あなたへの愛だと思うのです。

 

私ね、知ってるの。

お母さんよりも、長生きしようとしていたあなたの気持ち。

 

だから、あの頃のあなたの気持ちを思うと、

悔しくて、仕方がないの。

 

必死で生きようとしていた人に対して、

地獄行きだなんて、失礼なものの言い方に、

何度考えても、頭に来ちゃう。

 

それは、

だから命を大切にしなさいって意味なのかも知れないけれど、

それなら、そう言えばいいのよ。

 

地獄って何?って、思わず感情的になってしまった私の、

その当たりどころが、

幼い頃に聞いたことのある閻魔様だなんて、私の発想に、

あなたは、何処かで、苦笑いしているのでしょうか。

 

 

 

今の私が見ている景色

あなたへ

 

あの頃の私の気持ちを綴った文字を眺めながら、

得体の知れないアレを思い出していました。

 

あなたを見送ってからずっと、

私は、得体の知れない何かに追われていました。

 

どんなに頑張って逃げても、

得体の知れないアレは、すぐ背後にまで迫り、

今にも私を飲み込もうとしていたのです。

 

アレから逃げるために、気持ちが焦ってばかりで、

日々の生活は、気持ちを緩める時間さえないまま、

いつでも、緊張していた私にとって、

眠る時間だけが、唯一、開放される時間でした。

 

それなのに、

なかなか眠りへと辿り着くことが出来ずに、

布団の中で、ひとり、怯える日もありました。

 

得体の知れないアレが何であったのか。

 

焦り、不安、恐怖、怒り、悲しみ

そんなふうに表現することの出来ない、

正体不明な何かであるとしか、説明することが出来ず、

今になっても、

アレが何であったのか、私にも、よく分かりません。

 

得体の知れないアレに追いかけられていたあの頃を振り返ると、

胸が苦しくなります。

 

地獄

 

あの頃のことを表現するなら、

そんな言葉が、一番相応しいのかも知れません。

 

ここへ引っ越してきてから、

得体の知れないものは、いつの間にか、姿を消し、

私は漸く、アレから逃げ切れたのだと安堵したのでした。

 

引っ越してきたこの場所は、

私に、休む時間を与えてくれました。

 

どんなに休んでも、

もう、得体の知れないアレは、どこにも見当たりませんでした。

 

だから、たくさん休みました。

 

背後を見ても、

もう、私を追ってくるものが何もいなくなった代わりに、

いつの頃からか、

私が目指す場所が、

キラキラと光り輝いて見えるようになったのです。

 

追いかけられることがなくなった私は、

いつから、

追いかけるようになったのだろう。

 

あなたが此処にいないこと。

 

あの頃の私も、今の私も、

不安で、苦しくて、悲しいことに変わりはないのに、

今の私が見る景色は、気が付けば、

素敵なものに変わっていました。

 

私はまだ、夢を叶える旅の途中であるにも関わらず、

ねぇ、あなた

私ね、頑張ってるよって、

そんなふうに、あなたに報告してみたくなったのは、

追い立てられて、前へと進もうとするのではなく、

自らが、歩を進めることができるようになったことに、

少しだけ誇らしく思えたからなのでしょうか。

 

今の私が見ている景色は、

あの頃の私には、想像もつかなかった景色です。

 

たくさん苦しんで、

たくさん泣きながらだったけれど、

私は、こんなところまで来ることが出来たよ。

 

 

www.emiblog8.com

 

 

 

台風の日の優しい嘘

あなたへ

 

今年も、あなたの実家から、キウイフルーツが届きました。

 

今年のキウイフルーツも、大粒で、とても美味しそう。

食べごろ間近になったら、

あなたのところにも、お供えしますね。

 

早速、あなたの実家へとお礼の電話を掛けると、

いつも通り、元気なお母さんの声を聞くことが出来ました。

 

まだ硬いから、しばらく置いておいてね

元気だった?

 

そんな話から、先月の台風についての話になりました。

 

あの日、あなたの実家と連絡を取った私。

 

停電したけれど、

朝には復旧したから、大丈夫

 

そんなメッセージと共に送られてきた、

台風の爪痕が残った写真に、思わず、息を飲みましたが、

 

家も、みんなも大丈夫

 

その言葉に、安堵していたのでした。

 

お母さんとの電話では、

実家のすぐ近くの、

崩れた道路ばかりが気になっていた私でしたが、

実は、水道が1週間も止まっていたと聞かされました。

 

水が出ないままに暮らした1週間。

どんなに大変だっただろう。

水を使わなくてもいい日なんて、1日たりともないもの。

 

漸く、水道が出るようになった日、お母さんは、

疲れ過ぎて、寝込んでしまったそうです。

 

私は、何も知らないままに、

何も助けてあげることが出来ませんでした。

 

お母さんの話を聞きながら、

なんだか、落ち込んでしまいました。

 

台風が去った後の、

こっちは大丈夫って、その言葉を信じ切っていましたが、

あれは、心配掛けないように、

優しい嘘だったのかも知れないと、

漸く気が付くことが出来たのは、

電話を切り、暫くが経ってからでした。

 

水道が止まったことは、今は言わないでおこう

心配掛けるだけだよ

 

もしかしたら、

そんなふうに、話し合いがされたのでしょうか。

 

水道が出た日には、寝込んでしまったお母さんですが、

今は、元気にしているそうですよ。

 

本当に、良かった。

 

次に会いに行けるのは、お正月でしょうか。

あなたの家族に会える日が、とても、楽しみです。