拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

帽子

あなたへ


先日、あの子の部屋を何気なく見渡すと、
高いところに飾ってある、あなたの帽子が目に留まりました。


何故だか分かりませんが、
自分の居場所は、ここだと言わんばかりに、
そこにあるように見えたその帽子は、
ひっそりと、あなたを待っているようにも見えました。


眩しいのが苦手で、
家族で出掛ける時には、いつも帽子を被っていたあなた。
気に入った帽子を長い期間被っては、
時期が来ると、買い替えながら、
あの帽子は、何代目の帽子だったでしょうか。


ここに引っ越して来てから、ずっと、
あの子の部屋に飾ってあったはずのあなたの帽子ですが、
あの日、何故だか、目に留まり、
長い間、あなたの帽子を見つめました。
そして、その帽子を被っているあなたの顔が浮かびました。


それは、笑って、私に話し掛けるあなたの顔でした。


思わず、目を閉じて、そんなあなたの顔を鮮明に思い出してみると、
そこには、触れられそうな程、すぐ近くに、あなたがいました。


こんなふうに、あなたが側にいてくれた間に、
もっと、たくさん、言葉にして、伝えなければならなかったことがありましたね。


あなたを、どんなに大切に想っていたのか。
あなたが、どんなに掛け替えのない存在だったのか。
あなたを、どんなに愛しているのか。


瞼の裏の、決して触れることの出来ないあなたに、
涙を見られないように、しっかりと目を開けると、
小さなため息を吐きながら、あの子の部屋を出ました。


私は、あなたが側にいてくれた間に、
どれだけ伝える事が出来ていたでしょうか。


私が思っているよりも、
たくさん、伝わっているといいなと思います。