拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

夜の広場

あなたへ


先日、雨が降る寒い日に、
武道のお稽古場まで、あの子を迎えに行った夜のことでした。


少し早く着いた私は、車内から、静かな夜を眺めました。


厚い雲に覆われた夜空。
フロントガラスに、静かに当たる雨。


暖房を掛けた車内で、
あなたを待っていた夜を思い出しました。


遅い時間に、仕事を終えて、
家まで、やっと辿り着いたあなたとの長電話。


やっぱり、逢いたくなっちゃったよ


どちらからともなく、こんな言葉が出た夜がありましたね。


あなたがいる場所と、
私がいる場所の距離を埋めるように、待ち合わせた広場。


あなたの白い4wdが見えると、ちょっぴりドキドキしたこと


ドアを開けて、あなたの車に乗り込むまでの数秒間
少し俯いて隠した、こぼれ落ちる笑み


お待たせって、よく通るあなたの声が聞こえると、
なんだか、ホッとしたこと


静かな夜を眺めていたら、
なんだか、あの頃の夜に戻れたような気がして、
目を閉じてみました。


いつまで待っても、
あなたの4wdの音は、聞こえないまま、
不意に助手席のドアが開き、
お待たせ
そう、聞こえたのは、あの子の声でした。


あの日の夜は、なんだか、
あなたを待っていた、いくつもの夜に似ていて、
あのまま待っていたら、
あなたが来てくれるような気がしてしまいました。


そっか
どんなに待っていても、
あなたは、もう、来てくれないんだね。


もう、あの夜に戻ることは出来ないけれど、
あなたの愛車だった白の4wdを運転するあなたの顔も、
私の車を見つけて、手を振るあなたの顔も、
優しいその声も、
全部覚えてる。


あなたは、覚えていますか?


長電話をしながら、
別々の場所から、同じ空を眺めるだけじゃ物足りなくて、
ふたりの距離を埋めるように、
待ち合わせた夜の広場の景色を。

 

 

 

オレンジ色のバッグ

あなたへ


あなたを見送ってから、ずっと、
私には、触れられないものがありました。


あなたの仕事用の、オレンジ色のバッグ。


毎日、あなたと一緒に、仕事に出掛けていたそれは、
あまりにも特別である気がして、
ずっと、向き合えないでいたあなたの遺品でした。


引越しの際に、手早くダンボールに詰めたまま、出すのが辛くて、
ずっと、そのままの形で押入れにしまっていたあなたのバッグ。


先日、ふと、
あなたが、自分で決めて歩んだ道を、見てみたいと思った私は、
思い切って、
ダンボールを開けてみることにしました。


あなたは、
このバッグを買った日のことを、覚えていますか?


あの頃は、バイクで通勤していたあなた。


荷物をひとつにまとめられる、丈夫なバッグがいいな
暗くても目立つように、明るい色のバッグがいいよね


こんな話をしながら、
家族3人で、意見が一致したのは、オレンジ色のバッグでした。
これがいいね って。


11ヶ月振りに見たあなたのバッグ。
よく見ると、汚れていて、角に小さなほつれがありました。


いつだったか、買い替えを提案したけれど、
すぐに汚れてしまうし、
このバッグが使いやすいからと、
長い間、愛用していましたね。


バッグについた汚れにも、ほつれにも、
あなたと一緒に、重ねた時間が見えました。


バッグの中には、


予備の着替え
名刺入れ
カードケース
文房具
きっと、あなたにとって、1番使いやすかったであろう工具


毎日、あなたと一緒に、仕事に出掛けていたそれらは、
とても、あなたらしいやり方で、収まっていました。


カードケースを手に取った私は、
一枚ずつ、中身を確認しました。


色々な資格の修了証、入門証。
それぞれについた、あなたの顔写真。


ねぇ、見てよ。この写真の俺、人相悪くない?


これは、
6年前に取った資格の、修了証の写真を見せてくれた時の、
あなたの言葉でしたね。


あの時は、新しい資格を取ったあなたに、お祝いの言葉よりも先に、
家族3人で、大笑いしましたっけ。


6年前のあなた
4年前のあなた
体調を崩す2ヶ月前のあなた


どのあなたも、
私がよく知っている、仕事を頑張ってくれていたあなたの顔でした。


たくさん、頑張ってくれましたね。
ありがとう。
長い間、お疲れ様でした。


あなたを見送ってから、ずっと、向き合うことが出来なかった、
あなたのオレンジ色のバッグ。


そこには、
あなたが、たくさん頑張ってくれていた証が詰まっていました。


近頃の私は、自分に自信がありません。
あなたを見送り、ひとつずつ、目標を達成してきましたが、
ここに来て、悩んでいます。


これから、どんなふうに、行きて行くか
今、自分が進もうとしている道は、正しいものなのか


何も、分からなくなってしまいました。


そんな後ろ向きな私が、
ずっと向き合えないでしたオレンジ色のバッグと向き合おうと思ったのは、
もしかしたら、
私の答えが、
そこにあるかも知れないと思ったからなのかも知れません。


あなたのバッグの中には、
あなたが出した答えが詰まっていました。


残念ながら、そこに、私の答えは見つかりませんでしたが、
今の私に、足りないものを教えてくれました。


私に足りないのは、
あなたみたいな、力強さ


自信を持って、力強く前に進んでいたあなたの想いが、
それを教えてくれました。


ありがとう。


次は、いつ、
あなたのバッグを見たいと思う時が来るでしょうか。


次に、あなたのバッグを見た時には、きっと、
その時に、私に足りない別な何かを、教えてくれるのかも知れませんね。

 

 

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ハロウィン

あなたへ


今日は、ハロウィンです。
毎年のこの日、
我が家でも、ハロウィンを意識した夕飯を楽しむようになったのは、
いつの頃からだったでしょうか。


あれは、
初めて、ハロウィンのメニューに挑戦した年のことでしたね。


ジャック・オー・ランタンをイメージして作った食事を整えると、
あの子は、すぐに、かぼちゃのお化けだ って大喜びしてくれたけれど、
あなたったら、
え?宇宙人じゃないの? って。


どう見たら宇宙人に見えるのかを話しながら、
3人で、大笑いしましたね。


あの年から毎年恒例となった、我が家のハロウィンの夕飯。


あの頃は、毎年、可愛らしいイメージで、飾り付けた食事に、
あなたもあの子も、とても喜んでくれました。


あなたを見送り、
大きくなったあの子を驚かせたくて、
去年から、ちょっと不気味なメニューへと変わりました。


今年は、
ウインナーに切り込みを入れて、指を作り、
手の形に並べた上から、ナポリタンを置いて、
誰かが這い出て来そうなイメージに仕上げました。


思っていたよりもリアルに仕上がったハロウィンメニューに、
あの子は、とても喜んでくれました。


料理が苦手な私。
あなたが側にいてくれた頃は、
市販のパスタソースに頼っていた私ですが、
あなたを見送り、
ナポリタンの味付けは、自分で出来るようになりました。
あの子の、お気に入りの一品です。


美味しそうに食べてくれるあの子の顔を見ながら、
一緒に、あなたが食べてくれている姿を想像しました。


あなたなら、なんて言ってくれるでしょうか。


指だ!なんて、あの子と騒ぎながら、
あの子と同じ顔で、
おかわりある?って、
聞いてくれたでしょうか。