拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

3月32日 ~確信~

私は、再び彼の真横に座り、彼の顔を覗き込んで、じっと見つめた。

眉毛、まつ毛、彼の瞳に映る私、輪郭、少しだけ生えた髭、どこからどう見ても本物だ。

納得できる確信が持てたら、もう、考えることを辞める━━━。

とは言っても、大したことは、思いつかなかったので・・・

 

「ちょっと、ほっぺたつねってみて?軽くじゃダメだよ。本気でやってみて?」

彼に右側の頬を出しながら、よくアニメなどて見かける『アレ』を試してみることにした。

こんなこと、本当にやる人なんて、見たことないし、

私自身も生まれて初めての『アレ』だ。

 

「え?なんで?」

ちょっと困った顔をした彼だったけれど、お願いを聞いてくれた。

 

「いったーい!すっっごく痛い!」

本気で痛がる私に、彼は、

「は?だって、お前がやれって言うからさぁ。でも、そんなに強くやってないよ。」

そんなことを言いながら、本気で痛がる私に、またもや困った顔を見せたのだった。

 

そうだった。彼は、とても力が強かった。

私の軽くと彼の軽くは、力の度合いが違っていたんだった。

本気でとお願いしたけれど、彼はちゃんと手加減をしてくれたんだろう。

これでも・・・。

 

鏡を見ると、右頰に薄っすらと赤く、彼の指の跡が残っていた。

まだジンジンと痛む頬に手を当てながら、可笑しさがこみ上げてきた。

 

鏡を見つめたまま、突然笑い出す私を、不思議そうに見つめる2人が鏡越しに見えたけれど、私は、そんな2人にはお構いなしに笑い続けた。

 

これは夢なんかではない。

現実だ。

今、目の前にいる彼は、やっぱり本物なんだ。

 

生きていれば不思議なことだって、たまにはあるのかも知れない。

私の中に刻み込まれた辛く悲しい記憶は、ひとつも薄れることはないけれど、いつか、あれは夢だったと笑って、彼らに話せる時が、きっと、来るのだろう。

 

もう、これ以上、考えることはやめよう。

ここにある幸せだけを、ちゃんと見つめていたい。

私は、心から、そう思った。