拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

土用の丑の日

あなたへ

 

あれは、いつかの土用の丑の日のこと。

 

鰻は、お酒で蒸すと、

ふわふわになって美味しくなるんだよ

 

会社の先輩から、そんなふうに教えて頂いた私は、

仕事から帰ると、早々に、

あなたとあの子が喜ぶ顔を思い浮かべながら、

晩御飯の支度に取り掛かったのでした。

 

そこに、あなたからの電話。

 

今、仕事が終わったよ

今から帰るから、今日は、外にご飯食べに行かない?って。

 

そんなあなたの言葉に、

 

鰻を準備したよ

だから、今日は帰って来て

 

今日は、家で食べようって、

そう言うつもりだったのに、

何故だか、今日は帰って来て なんて言ってしまった私。

 

今日は帰って来てって、

それじゃ、俺がいつも帰ってないみたいじゃん

俺、毎日、帰ってるよ

 

そう言って、爆笑するあなたの声と、

分かった

今から帰るねって、

あの日のあなたの楽しそうな声は、

私をとても幸せな気持ちにさせてくれたのでした。

 

あれは、いつの土用の丑の日だったでしょうか。

 

他愛もない会話をよく覚えているのは、

あなたが、いつでも、当たり前に帰って来てくれる毎日は、

とても幸せなことなんだって、

そんなことに、ふと気が付いた瞬間だったからなのかも知れません。

 

あの日のあなたは、

家に帰って来てからも、何故だか、

 

ねぇ、俺、毎日帰って来てるよ?

 

なんて、嬉しそうに、私の側に寄って来ましたね。

 

あなたは、どうして、

あんなに嬉しそうな顔をしていたの?

 

それだけが、今でも分からないままに、

あの日のことを思い返せば、胸の奥が温かく、

そして、なんだかとても、苦しい。

 

今日は、土用の丑の日です。

 

買い物に出掛けた私は、鰻を選びながら、

あの日のことを思い出していました。

 

ねぇ、あなた

今夜は鰻だよ

だから、今日は、帰って来てね

 

もしも、

私がそんな言葉を掛けたのなら、

あなたは、

あの頃と同じように笑ってくれるでしょうか。

 

俺、毎日、帰ってるよって、

今日だけは、

あの時と同じ言葉を、聞かせてくれませんか。