拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

配偶者

あなたへ

 

私が初めて、配偶者『有』に丸を書く機会があったのは、

今の職場へ勤めるようになってからのことでした。

 

結婚してから、初めての年末調整。

 

配偶者の欄、有の方を丸で囲みながら、

自然と思い浮かんだのは、あなたの顔でした。

 

あなたと結婚してから、数年が経っていたあの頃でしたが、

配偶者という慣れない響きに、

なんだか、ちょっとだけ、

くすぐったい気持ちがしたこと、今でも、よく覚えています。

 

だって、ほら、

例えば、友達にあなたのことを話す時、

私の配偶者がね なんて言わないでしょ?

 

だから、主人でも、夫でもなく、

配偶者と言う呼び方は、

なんだかとても、新鮮な気持ちがしたの。

 

あなたは、私の配偶者なんだね

 

そうだよ

夫婦は、お互いを配偶者って呼ぶからね

 

あの日のあなたとの会話は、

時期が来ると、毎年、蘇る私の記憶となりました。

 

あなたを見送り、間もなかった頃の私は、

数々の手続きに追われながら、書面上で、

あなたが亡くなってしまったことを、認めなければなりませんでした。

 

平然を装いながら、ひとつひとつの手続きを済ませ、

漸く、手続きが終わる頃には、

これでもう、辛い作業は、しなくてもいいのだと、

安堵していたけれど、

あなたを見送ってから、初めてのこの時期に、

年末調整の用紙へと書き込みをしながら、

書面上で、あなたが亡くなったことを認める作業は、

これからも、毎年続いていくのだと、初めて気が付いたのでした。

 

先月、年末調整の用紙を提出しました。

 

あなたを見送ってから、これで、6回目になりますが、

とても小さな欄であるにも関わらず、

何故だか、

配偶者『有•無』の欄に、一番初めに目が行ってしまうのです。

 

あなたが、もう此処にいないことを認めなければならない作業に、

なんだか、ため息が漏れてしまう一方、

配偶者の欄がひとたび目に入れば、私の中に見つけるのは、

あの頃と同じ気持ち。

 

あなたは、私の配偶者なんだねって、

あの頃の記憶が、鮮明に蘇るのです。

 

本当は、認めたくない気持ちのままに、

雑に、無の方へ丸を書きながら、

私はきっと、これから先も、

胸の痛みの奥に、

初めて、配偶者『有』に丸をつけた、

あの頃の気持ちを思い出すのでしょう。