拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

夜の広場

あなたへ


先日、雨が降る寒い日に、
武道のお稽古場まで、あの子を迎えに行った夜のことでした。


少し早く着いた私は、車内から、静かな夜を眺めました。


厚い雲に覆われた夜空。
フロントガラスに、静かに当たる雨。


暖房を掛けた車内で、
あなたを待っていた夜を思い出しました。


遅い時間に、仕事を終えて、
家まで、やっと辿り着いたあなたとの長電話。


やっぱり、逢いたくなっちゃったよ


どちらからともなく、そんな言葉が出た夜がありましたね。


あなたがいる場所と、
私がいる場所の距離を埋めるように、待ち合わせた広場。


あなたの白い4wdが見えると、ちょっぴりドキドキしたこと


ドアを開けて、あなたの車に乗り込むまでの数秒間
少し俯いて隠した、こぼれ落ちる笑み


お待たせって、よく通るあなたの声が聞こえると、
なんだか、ホッとしたこと


静かな夜を眺めていたら、
なんだか、あの頃の夜に戻れたような気がして、
目を閉じてみました。


いつまで待っても、
あなたの4wdの音は、聞こえないまま、
不意に助手席のドアが開き、
お待たせ
そう、聞こえたのは、あの子の声でした。


あの日の夜は、なんだか、
あなたを待っていた、いくつもの夜に似ていて、
あのまま待っていたら、
あなたが来てくれるような気がしてしまいました。


そっか
どんなに待っていても、
あなたは、もう、来てくれないんだね。


もう、あの夜に戻ることは出来ないけれど、
あなたの愛車だった白の4wdを運転するあなたの顔も、
私の車を見つけて、手を振るあなたの顔も、
優しいその声も、
全部覚えてる。


あなたは、覚えていますか?


長電話をしながら、
別々の場所から、同じ空を眺めるだけじゃ物足りなくて、
ふたりの距離を埋めるように、
待ち合わせた夜の広場の景色を。