拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

黄色のチューリップ

あなたへ

 

あなたが私に見せてくれた、

奇跡のような出来事を思い返しながら、

ふと思い出した黄色のチューリップの話を、

今日は、あなたにも話してみたくなりました。

 

これは、1匹の猫の話です。

 

縞々模様の子猫が、私の妹夫婦宅の庭へと迷い込んで来たのは、

数年前のことでした。

 

首輪もなく、汚れていて、痩せ細った体。

その姿に、飼い主はいないのかも知れないと考えた妹は、

ご飯をあげたそうです。

 

たくさんご飯を食べて、お腹がいっぱいになると、

すぐに何処かへ行ってしまったそうですが、

子猫は、次の日も、その次の日も、庭に現れました。

 

毎日、ご飯をあげながら、

少しずつ、信頼関係を築いていくことが出来たのでしょう。

その姿を見るのが当たり前になった頃、

妹夫婦は、この猫を家族として迎え入れることに決めました。

 

ひとつだけ、妹夫婦が心配していたのは、

家の中で飼っている白猫と、

仲良く出来るのかという点だったそうですが、

そんな心配を他所に、白猫は、

ある日突然、家の中へとやって来た子猫を歓迎し、

面倒を見るような仕草を見せたのだそうです。

 

小さな体で、必死に、自然の中で生き延びて来た縞々模様の子猫にとって、

当たり前にご飯があることも、

名前で呼ばれることも、

面倒を見てくれるお姉さん猫が側にいてくれることも、

きっと、全てが、とても幸せな時間だったと思います。

 

元気に飛び回る姿、たくさんご飯を食べる姿。

一見して、健康そうな縞々模様の子猫でしたが、

実は、大病を患っていたようでした。

 

妹夫婦の家で過ごした時間は、とても短く、

子猫の姿から、立派な成猫の姿へ変わると、

平均寿命よりも、随分と短いその生涯を終えて、

静かにこの世界を去っていきました。

 

妹夫婦宅の裏庭の、日の当たる暖かな場所。

毎年、春になると、

花を咲かせたことのないチューリップの葉だけが生える場所の隣が、

その子の眠る場所となりました。

 

何故でしょうか。

縞々模様の猫が、この世を去ってから、初めて迎えた春にだけ、

そこに、一輪の黄色のチューリップが花を咲かせたそうです。

 

それは、死んでしまった猫に付けてあげていた、

首輪の色と同じ色をした花でした。

 

ありがとう

 

きっと、縞々模様の猫から、妹夫婦への、

そんな気持ちが込められた花であったに違いありません。

 

この世界には、

説明のつかない不思議なことが、たくさんあります。

 

目には見えなくても、誰かが誰かを大切に想う気持ちは、

きっと、そこら中に溢れていて、

そんな想いたちは、時に奇跡を起こすのかも知れません。

 

生や死、

人間なのか、人間ではない別な生き物なのか、

そんな隔たりなど全く関係のない、

温かな想いだけが溢れた穏やかな世界が、

実は、もう一つ、

ひっそりと、此処に存在しているようにも思えます。

 

もしも、その世界に色をつけることが出来たのなら、

私たちが暮らすこの世界は、

見たことのないような美しい色に、染まるのかも知れませんね。