拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

赤いシャツ

あなたへ


あなたを見送り、あなたの私服は、
今、あの子が着ています。


あなたを想い、寂しそうにしながらも、
こんなにかっこいい服、持ってたの?って、
あなたの服を広げては、
この服、僕が貰ってもいい?って、
あの子の寂しい瞳の中に、
キラキラとしたものが見えました。


1年の大半は、仕事着だったあなた。
仕事が忙しく、私服を着る機会は、ほとんどありませんでしたね。


あの子が見た事のないあなたの私服が、
たくさんありました。


あなたは、赤い半袖のシャツを買った日の事を、
覚えていますか?


あれはまだ、私達が出会ったばかりの頃。


社員旅行を間近に控えたあなたは、
旅行に着ていく服を、一緒に服を選んでほしいと、
買い物に誘ってくれました。


その時、あなたは、
自分で服を選ぶと、いつも、
何故かグレーの服を選んでしまうと、
笑っていましたね。


あの日、私が選んだ色は、
あなたがまだ、挑戦した事がなかった赤。


こんなのも似合うよ


私が選んだ赤のシャツを、鏡に向かって合わせながら、
本当に?似合う?
って、何度も確認されましたっけ。


初めての色に、あなたはなんだか、不安そうだったけれど、

本当に、よく似合っていましたよ。


随分前に買ったシャツですが、
数回しか着る機会がなかったそれは、
とても綺麗な状態でした。


あなたの服を、よく着るあの子だけれど、
暑くなると、あの時の、赤い半袖のシャツを頻繁に選びます。


あなたと出会って、初めて、
あなたのために選んだ赤のシャツ。


あなたには、一度も話した事はありませんでしたが、
私にとって、それは、特別なものでした。


あのシャツを見るとね、胸がキュンってします。


ただ、ただ、あなたの側にいる事が嬉しくて、
意味もなく、笑みが溢れていたあの頃の、
私の気持ちがこもった赤のシャツは、
今、あの子が大切にしてくれています。

 

 

 

 

コトバ -わたしへ-

雨の日には 泣いてもいいんだよ


雨はその涙を
そっと隠してくれるから


雨の日には 弱音を吐いてもいいんだよ


小さくついたそのため息は
きっと雨音が消してくれるから


俯いて独り言


辛いんだ
寂しいんだ
上手く笑えないよ


だってさ・・・


逢いたいよ
逢いたいよ
どこにいるの?


胸の中
溜め込んだ苦しさは
雨雲みたいに立ち込める


雨の日には 泣いてもいいんだよ


涙も ため息も 小さく漏れる嗚咽も
全部隠してくれるから


やがて去りゆく雨雲の隙間から
光が差したのなら


空高くへと昇っていくのでしょう


その涙も雨も
太陽に吸い込まれていくように


無理に笑わなくたっていいんだよ


さあ
顔を上げて


きっと大きな虹が見えるはずだから


綺麗だなって
思わず笑みが溢れてしまうような
綺麗な景色が見えるはずだから

 


きっと人生はそういうふうに出来ているの

 

 

 

 

 

 

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拝啓、空の彼方のあなたへ - 拝啓、空の彼方のあなたへ

約束

あなたへ


あれは、あなたが一般病棟へ移り、間も無くの頃でした。
やっと、ICUから出られたあなたは、
院内を自由に動けるようになり、
誰もお見舞いに来ていない時間には、
院内のコンビニへ出掛けるようになりましたね。


あなたが、元気だった頃に、よく飲んでいた炭酸飲料。


病院のコンビニには売っていないから、
買って来て欲しいと言われた事、
今でも、よく覚えています。


あの時、私は、
分かった。今度買って来るねって、
約束したのでした。


何処にでも売っていると思っていた、その炭酸飲料は、
何故だか、近所のスーパーにも、自販機にも、どこにも売っていませんでした。


何件ものコンビニやスーパーを回ったけれど、どうしても、見当たらず、


ごめんね
何処を探しても見当たらなかったよ


そう言って、代わりのものを手渡した時の、あなたのちょっと、残念そうな顔が、
ずっと、忘れられませんでした。


あなたを見送ってからも、買い物に出掛けると、
あの時のあなたとの約束を思い出しては、
ドリンクコーナーで、あの炭酸飲料を探しました。


あれからも、ずっと、何処にも見当たらずに、
あなたにお供えする炭酸飲料は、
あの時、代わりに手渡した、
別な炭酸飲料でした。


炭酸飲料が好きだったあなた。


きっと、あの時、病院で、私が手渡したものは、
あの時のあなたの、
2番目に好きだったものなのでしょう。


先日、買い物へ行くと、
あなたが飲みたがっていた炭酸飲料を見つけました。


その時、私は、宝物を見つけたような気分で、
一本をカゴに入れました。


家に帰り、早速、あなたにお供えしたけれど、
こんなに時間が掛かってしまいました。


あの時、約束したものね
やっと見つけたよ


そう言って、手を合わせたけれど、
あの日の私は、
あなたの顔を、まともに見る事が出来ませんでした。


あの日のあなたは、
どんな顔で、こちらを見ていたのだろう。

 


約束したのにね。


ごめんね
間に合わなかったよ。