あなたへ
あなたを見送り、あなたの私服は、
今、あの子が着ています。
あなたを想い、寂しそうにしながらも、
こんなにかっこいい服、持ってたの?って、
あなたの服を広げては、
この服、僕が貰ってもいい?って、
あの子の寂しい瞳の中に、
キラキラとしたものが見えました。
1年の大半は、仕事着だったあなた。
仕事が忙しく、私服を着る機会は、ほとんどありませんでしたね。
あの子が見た事のないあなたの私服が、
たくさんありました。
あなたは、赤い半袖のシャツを買った日の事を、
覚えていますか?
あれはまだ、私達が出会ったばかりの頃。
社員旅行を間近に控えたあなたは、
旅行に着ていく服を、一緒に服を選んでほしいと、
買い物に誘ってくれました。
その時、あなたは、
自分で服を選ぶと、いつも、
何故かグレーの服を選んでしまうと、
笑っていましたね。
あの日、私が選んだ色は、
あなたがまだ、挑戦した事がなかった赤。
こんなのも似合うよ
私が選んだ赤のシャツを、鏡に向かって合わせながら、
本当に?似合う?
って、何度も確認されましたっけ。
初めての色に、あなたはなんだか、不安そうだったけれど、
本当に、よく似合っていましたよ。
随分前に買ったシャツですが、
数回しか着る機会がなかったそれは、
とても綺麗な状態でした。
あなたの服を、よく着るあの子だけれど、
暑くなると、あの時の、赤い半袖のシャツを頻繁に選びます。
あなたと出会って、初めて、
あなたのために選んだ赤のシャツ。
あなたには、一度も話した事はありませんでしたが、
私にとって、それは、特別なものでした。
あのシャツを見るとね、胸がキュンってします。
ただ、ただ、あなたの側にいる事が嬉しくて、
意味もなく、笑みが溢れていたあの頃の、
私の気持ちがこもった赤のシャツは、
今、あの子が大切にしてくれています。