拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

1000の手紙

あなたへ

 

あなたを想い、泣いてばかりいた私が、

そうだ。あなたへ手紙を書いてみようって、

こんなふうに思い立ったのは、

遺した人が、この先どんな人生を送るのか、少し気になると、

あなたが書き遺したこんな言葉があったからでした。

 

今日は、こうしてインターネットに載せて、

あなたへの手紙を届けることにしたきっかけを、

綴ってみようと思います。

 

あなたへの手紙を書くということを思いついた当初の私は、

あなたの場所の隣に、手作りのポストを置いて、

そこへ手紙を投函するというやり方を思いつきました。

 

いつの日か、私がこの世界を去る日が来たのなら、

ポストへ投函した手紙たちを一緒に、棺に入れてもらおう。

そうしたらきっと、全部の手紙をあなたに届けられるはずだから。

 

こんな思いつきが始まりでしたが、

やがて私の中に蘇ったのは、

いつかのあなたの言葉と、

それを裏付けるかのような不思議な出来事でした。

 

ねぇ、あなた。

あれは、いつの頃だっただろう。

 

心霊現象には、電化製品が関係したものが多いのは、

電気と向こう側が繋がっているからなんだよ。

 

確か、いつかのあなたは、こんな感じの話をしてくれましたね。

 

もう!やめてよ!

 

怖がりな私は、あの時、

こんなふうにあなたの話を遮ってしまったけれど、

あれから、ずっと先の未来では、

あの時のあなたの話を肯定せざるを得ない不思議な出来事が起こりました。

 

あれは、あなたを見送ってからの私たちが、

あなたの実家へ行った日のことでした。

 

あなたのお母さんとの談笑の中、話の流れから、

ほんの冗談のつもりで、あなたを揶揄うようなことを言ったら、

突然に電気がパチって消えたの。

 

皆、驚いていたけれど、何故だか私には、

ねぇ!聞こえてるからね!って、

こんなあなたの声が届いたような気がしていました。

 

あんなふうに、突然に電気が消えるのを見たのは、

後にも先にも、あの時一度きり。

 

その現象を、もう少し現実的に考えるのなら、

誤作動などの原因も考えられるのでしょう。

ですが、あんなにタイミング良く誤作動が起こるかしら。

 

瞬時にあなただと感じたことだけが、唯一の証拠だけれど、

そちら側と電気は密接な関係にあるのだというあの頃のあなたの説は、

きっと、間違いではないのでしょう。

 

あなたの側に、素敵なポストを作るという案も悪くはなかったけれど、

よく考えてみれば、

たくさん綴ったあなたへの手紙を棺に入れて貰うやり方じゃ、

その時が来るまで、想いを何も届けられないのかも知れないとも思いました。

 

それに、全部の手紙が棺に入り切るのかという点についても、

実はちょっと心配でした。

 

この量はちょっと・・・

なんて、葬儀屋さんを困らせてしまうかも知れないし、

私を見送るあの子も、それじゃきっと困ってしまうから。

 

まさか、あの時のあなたが話してくれた怖い話と、

この手紙が結びつくだなんてね。

 

なんだか笑ってしまうけれど、

インターネットの世界を、あなたが教えてくれたから、

怖い話を聞かせてくれたから、

そして、たった一度だけ、

あの、不思議な現象を見せてくれたから、

あなたへの手紙を、

こうしてインターネットに載せるという方法へと辿り着くことが出来ました。

 

このやり方なら、いつでもリアルタイムで、

あなたへの想いを届けられるのかも知れないなって。

 

こうして、初めてあなたへの手紙を書いたのは、

あなたを見送り、間も無く2年が経とうとする頃のことでした。

 

あれから、ゆっくり、ゆっくりと手紙を綴りながら、

気が付けば、これで1000通目の手紙になりました。

 

あの頃、中学3年生だったあの子は、立派に成長し、

間も無く新たな一歩を踏み出します。

そして、こうして改めて振り返ってみれば、

私自身も、大きく成長出来たように感じています。

 

あなたが書き遺した言葉を、改めて見つめてみます。

 

ねぇ、あなた。

あの夏からの私たちは、この世界で、

こんなふうに成長してきましたよ。

 

私が綴った文字たちが、

あなたの元まで届きますようにと願いを込めて、

これからも、ゆっくりと手紙を綴っていくよ。

 

こちら側の私から、そちら側のあなたへ。

愛を込めて。

 

 

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奇跡みたいな景色

あなたへ

 

部屋、決めてきたよ

 

こんなあの子の声が聞こえたのは、

まだ梅の蕾が膨らむ前の頃のことでした。

 

内見をしながら撮ってきた動画や写真を、

嬉しそうに見せてくれたあの日のあの子は、

これから住むことになるその部屋が、

どんなに素敵な場所であるのかを、

とても楽しそうに話して聞かせてくれたのでした。

 

今回、あの子の巣立ちに当たり、

必要であろうことを教えながらも、

あまり多くの口出しをせずに見守ると決めたのは、

これまでのあの子の成長を振り返りながら、

あの子なら、大丈夫だと感じたからでした。

 

巣立ちの準備は、人生の中で一度きり。

初めて私の元から離れるともなれば、

色々とやってあげたくなってしまう気持ちもありましたが、

連日、インターネットで検索をしながら、

内見までの段取りをするあの子の姿をそっと見守りました。

 

例えば、

インターネットで見た部屋の印象と、

実際に見た部屋の印象が異なることもあれば、

お気に入りの部屋を見つけることが出来ても、

その他の条件が合わない場合もあるのだと思います。

 

住む部屋を決めるために、

何度か足を運ぶことを想定していたあの子でしたが、

何故だか、トントン拍子に物事は進んで行きました。

 

内見した部屋をとても気に入ったことや、

担当してくださった方が、とても素敵な方であったこと。

 

内見から帰ったあの子が、

嬉しそうに聞かせてくれた話に頷きながら、

きっとあなたが、しっかりとあの子を守ってくれていたんだろうなって、

そんな気がしていました。

 

先日、あの子が新しく暮らすことになる部屋へ行って来ました。

 

街並みも、雰囲気も、

そこに流れる空気感も、とても素敵な場所。

 

そして、あの子が暮らすことになる部屋も、

なんだかとても落ち着ける場所でした。

 

あの子と一緒に、近所を散策しながら私が見つけたのは、

いつかのあなたが私に見せてくれた景色でした。

 

ねぇ、あなたは、覚えていますか。

あれはまだ、結婚する前の私たち。

一緒に旅行へ行った帰り道、

あなたは、素敵な景色の見える場所へと私を連れて行ってくれましたね。

俺のお気に入りの場所に連れて行ってあげるよって。

 

全く土地勘のない私は、

あの時のあなたが連れて行ってくれた場所の地名など、

全く知らずにいましたが、

あの子と一緒に散策をしながら見つけた景色に、

あの日のあなたが見せてくれた景色は、この辺りだったのだと、

初めて、地名までもを知ることが出来たのでした。

 

私と出会う前には、他県に住んでいたあなた。

あの子が暮らすことになる地の隣の県に住んでいたはずのあなたですが、

あなたはきっと、あの辺りのことも、よく知っていたんだね。

 

あの子が暮らすことになる地で見つけた思いもしなかった景色に、

とても驚いてしまった私でしたが、

更に驚いたのは、あの子の部屋から見えた夕方の景色でした。

夕日が見える方角が、この部屋と全く同じだったのです。

 

あの子と私。

これからは、遠く離れて暮らすはずなのに、

全く同じ夕日が見えるだなんて、こんな偶然、あるわけない。

なんだか驚き過ぎて、笑いさえ込み上げてきてしまいました。

 

だって、こんな偶然を作れるのは、

あなたしかいないじゃない。

 

偶然に偶然を重ねたやり方で、

いつでも奇跡みたいな景色を見せてくれるあなたって、本当に素敵。

 

あの子の巣立ちの日を思い描いては、

夜中にひとり、お布団の中で泣いていた私の瞳に、

こんなに素敵な偶然が重なった景色が映るだなんてさ。

 

あの子の巣立ちの日は、刻一刻と迫って来ましたが、

あの子は、しっかりとあなたに守られながら、

此処から巣立って行くんだね。

 

 

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最愛の人の死

あなたへ

 

ねぇ、あなた

今日はね

 

ねぇ、あなた

聞いて?

 

あなたの遺影に向かって話し掛けることが当たり前になった私にとって、

これは、日常に溶け込んだいつもの時間であるはずなのに、

不意に違和感を覚えて、

あなたの遺影から位牌、そして、

お骨の入った箱までを順番に見つめるのは、これで何度目だろう。

 

どうして私は今、あなたの遺影に話し掛けているのだろう。

どうしてあなたは、なにも返事をしてくれないのだろうって。

 

そうして私は、

あの夏にいたあなたの温かな手を離した瞬間からの記憶を辿りながら、

此処まで歩んだ日々をもう一度、歩み直すのです。

 

死別の悲しみを乗り越える

 

こんなニュアンスの言葉を聞いたことがあるけれど、

死別の悲しみを乗り越えられる日なんて、きっと来ないのよ。

 

最愛の人の死というのは、

乗り越えられるほど、簡単なものじゃない。

 

あなたを想い、泣いてばかりいた私は、

やがて、あなたを想いながら涙を流すことは、もう終わりにしたいと、

そんなふうに涙を拭ったけれど、

それはきっと、

あなたを亡くした悲しみを乗り越えることが出来たわけじゃない。

 

だって、こうして不意に、

あなたが此処にいない違和感を感じることは、なにも変わらないもの。

 

私はきっとこの先も、

あの夏から変わらないあなたの姿に話をすることにも、

あなたのその声が聞こえないことにも、

不意に違和感を覚えては、

こうして何度でも、あの夏からの記憶を辿るのでしょう。

 

あなたの死を知った痛みは、

きっと永遠に、私の中から拭い去ることは出来ないけれど、

不意に違和感を感じては、

あの夏から、これまでの記憶を辿るこの時間もまた、

今の私の一部であり、

あなたを想う時間の一部でもあるのだと思います。

 

だからきっとこれからも、

突然にあなたに話し掛けることを辞めて、

じっとあなたを見つめることもあるかも知れないけれど、

或いは、急に黙り込んだまま、

そっと静かに、あなたの遺影に手を伸ばす瞬間があるかも知れないけれど、

心配しないで。

 

あなたはただ、そんな私をそこから見守っていてね。

 

不意に覚えた違和感に、

どんなにあの夏からの記憶を辿ろうとも、

やがて辿り着くのは、

夢を見つけた日のことや、あの子と一緒に笑ったたくさんの記憶。

 

あなたのその手を離した先で見つけた素敵な景色も、

ちゃんと辿って、私は必ず、此処にまた辿り着くから。

 

大丈夫。

どんなにあの夏からの記憶を辿ろうとも、

私はもう、泣いたりはしない。

 

目を閉じて、大きく深呼吸をして、

胸の奥がギュッと掴まれる感触をちゃんと感じたら、

しっかりと目を開けて、

何度でも必ず此処に戻って見せるから。

 

 

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