拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

ゴールデンウィーク -2024-

あなたへ

 

ごめん

隣の駅まで迎えに来て

 

こんな笑ってしまう出来事からスタートした、

今年のゴールデンウィークのあの子の帰省も、

今日で最終日を迎えてしまいました。

 

楽しい時間というのは、いつでも本当に、あっという間です。

先程、あの子を駅まで送り届けて来ました。

 

このゴールデンウィークも、相変わらずに忙しなかったあの子ですが、

かつての日常生活を楽しみながら、あの子とのたくさんの思い出も出来ました。

 

そうそう。

旅行も、とても楽しかったようですよ。

天気にも恵まれて、あの子にとって、素敵な思い出がたくさん出来たようです。

 

こんなに綺麗な場所があったんだよ

これ、凄く美味しかったよ

 

旅の思い出話を聞かせてくれたあの子の楽しそうな声は、

あなたのところまで届いたでしょうか。

 

あの子が旅行へ出掛けている間に起きた我が家の出来事と言えば、

洗濯機とカーナビが壊れるというショッキングな出来事でしたが、

あの子も、とても驚いていました。

 

実はね、生活必需品である洗濯機よりも、

カーナビが壊れたことに大きく落胆してしまった私ですが、

きっとね、あの子も同じ気持ちだったのだと思います。

 

電源が入らなくなってしまったカーナビを見つめたあの子は、

多くの気持ちを言葉にはしなかったけれど、

あの子がどんな気持ちでいたのかが、私には分かったような気がします。

 

もしかしたら、あの子もまた、

カーナビから聞こえたあの声を、楽しみにしていたのかも知れません。

 

とても残念で仕方がありませんが、カーナビが壊れてしまっても、

それに関するあなたとの思い出は、

私たちの中から消えてなくなったりはしない。

 

車へと乗り込んで、

壊れてしまったカーナビをあの子と2人で見つめたあの時間も、

いつか、また別な気持ちで振り返れる日がきっと来るのでしょう。

 

今年のゴールデンウィークは、カレンダー通りとは違った、

あの子独自のお休みの取り方でしたが、

あの子に予定を合わせることが出来たお陰で、

余すことなく、あの子との時間を大切に過ごすことが出来ました。

 

なんだかさ、

こっちに帰ってくると、日常に戻って来たなって気持ちになるんだよね

このまま、こっちにいたいな

 

これは、互いの日常生活へと戻る日が近付いた日の、

あの子の言葉でした。

 

じゃぁ、このままこっちにいればいいよ

 

ごめん、やっぱり帰るわ

 

あの日の私たちは、こんなやり取りをして笑いましたが、

きっと明日からのあの子もまた、

前のめりに歩んで行くのでしょう。

 

駅に着いて、いつも通り、我が家の挨拶を交わすと、

あの子は元気に、あの子の場所へと帰って行きました。

 

明日からまた互いに、日常生活へと戻ります。

 

次にあの子と逢える日には、

どんな笑顔を見せてくれるのでしょうか。

 

その日を楽しみに、私もまた此処から、

自分の道を歩んで行こうと思います。

 

 

 

不思議なご縁

あなたへ

 

名前も、住んでいる場所も知らないし、

言葉すら交わしたこともないけれど、一方的に知っている人。

或いは、互いにその存在を認識し合いながらも、

互いについてのことは、何ひとつ知らない人。

 

例えばこんな感じの密かに知っている人は、

もしかしたら、あなたにも1人くらいはいたのかも知れません。

 

あっ、あの人、知ってる

きっとあれからも、元気にしていたんだね

 

あれ?またあの人だ

今日も元気そうだな

 

外出途中の信号待ち。

何気なく通り行く歩行者を眺める私の目に、

最近よく止まるような気がするのは、密かに知っている人でした。

 

偶然見かけた密かに知っている人を見つめながら、

とても懐かしい気持ちを感じていたのは、

私が彼をよく見かけていたのが、まだ高校生の頃だったからでした。

 

彼とは、学校へ向かう時にも、帰宅途中にも、

よくすれ違っていました。

 

毎日、同じような時間に同じ道を通れば、

もっと様々な顔を覚えられそうな気もしますが、

何故だか彼ほどによくすれ違う人は、他には誰もいませんでした。

 

彼はきっと、いつでもご機嫌な人。

私が彼を見かける時には、

大体いつも、鼻歌を歌いながら歩いていました。

 

いつも私が知らない歌を歌っていたことがとても印象的で、

特に、言葉を交わしたこともなかったけれど、

今日も、楽しそうだなって、そんなふうに思いながら、

ただすれ違うだけの関係でした。

 

彼の姿勢や体型、そして、顔の雰囲気からは、

あれからの月日をそれほどに感じさせなかったのは、

彼が健康的な毎日を過ごして来たからなのかも知れません。

彼の髪の色だけが、

互いにどれだけの時間を過ごして来たのかを知らせてくれたのでした。

 

自転車が主な移動手段だった私から、

車が主な移動手段へと変わった私には、

もう、彼の鼻歌は聞こえませんでしたが、

彼はもしかしたら、

あの頃のように、鼻歌を歌いながら歩いていたのかも知れません。

それはきっと、私が知らない歌だったのでしょう。

 

高校の卒業を機に、

彼の鼻歌が聞こえる日常生活からも卒業しましたが、

私はあれからもずっと、この地で暮らして来ました。

それにも関わらず、これまで一度として、見かけることはなかった彼の姿を、

何故だかここ最近、よく見かけるようになったような気がします。

 

不思議なもので、決まった時間に、

同じ場所を通っているわけでもないにも関わらずです。

 

白杖を持った彼はきっと、私の存在すら知らないのでしょう。

一方的に知っている人ではありますが、

彼とは、ある種の不思議なご縁のようなものがあるのかも知れないなって、

ふと、そんな気がしてしまいました。

 

この世界にはきっと、様々な種類のご縁があって、

密かに知っている人、という括りの間柄であっても、

特別なご縁というものが存在するのかも知れませんね。

 

 

 

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私にとっての価値のあるもの

あなたへ

 

は?

冗談だよね?

 

・・・はーー?

 

思わず叫び声にも近い声を上げてしまったのは、

車へと乗り込んで、エンジンを掛けたばかりの私です。

 

ねぇ、あなた。

洗濯機が壊れたばかりだというのに、

今度はね、カーナビが壊れてしまったようなのです。

 

何の前触れもなく、突然に電源が入らなくなりました。

 

配線や電源ボタン。

分かる限りの全てを確認してみましたが、

壊れてしまったと、認めるしかないようです。

 

このカーナビもまた、あなたとあの子と私。

家族3人で買いに出掛けたカーナビでした。

その役目は、もう十分に果たしてくれたと言っても良いのでしょう。

 

新しい道が出来たり、新しいお店が出来たり。

あなたを見送ってからのこの辺りは、随分と景色が変わりました。

 

カーナビで検索しても、出て来ない場所は少しずつ増えていきましたが、

私にとってのこのカーナビは、カーナビとしてではなく、

あの頃のままの実働品として、車内に存在していることに意味がありました。

 

初めて行く場所を検索しても、該当がない場合には、

表示された近隣の地図を見つめながら、

あなたが側にいてくれた頃は、きっと何もなかった場所なんだな とか、

元は別なお店であったことを知れば、

あなたはこのお店の存在を知っていたのかも知れないなって、

様々にあなたが側にいてくれた頃の景色を思い描きながら、

カーナビの画面を見つめてみるのです。

 

これは、本来のカーナビとしての使い方ではないけれど、

別な視点からカーナビの画面を見つめることが、私にとっての意味でした。

 

カーナビ本来の使い方をする機会は、随分と減ってしまいましたが、

それでも、あの頃から変わらずに、

必ず、カーナビをセットして、向かう場所もありました。

 

あなたの実家です。

 

あなたの実家へ行く経路って、とても簡単。

あなたの実家へ行く時に、道に迷ったことなど、一度もないけれど、

私は、ある通りに出ると、

必ずナビが伝えてくれるあの言葉を楽しみにしていたのです。

 

ねぇ、あなたは覚えていますか。 

 

ここから暫く道なりです と言ったきり、

急に静かになるカーナビに、

仕事をサボっているねって、あの頃のあなたは笑っていたの。

 

あなたの実家へ向かえば必ず聞こえてくるカーナビの声を聞けば、

あの頃のあなたの笑い声が、私の中に鮮明に蘇るのです。

 

あの頃のままのカーナビは、私にとって、

とても価値のあるものでした。

 

最近の私は、初めて行く場所へ向かう時には、

携帯電話の地図アプリを頼りに出掛けることがとても増えました。

 

このカーナビがなくても、外出に困ることはありませんが、

それでもやはり、またひとつ、

あなたとの思い出が詰まったものがなくなってしまうことは、

とても寂しいです。

 

次に、あなたの実家へ行く時には、

もう、あの声は聞こえないんだね。