あなたへ
引っ越し先は、自分の家とは思えないし、思いたくない。
あんな家に帰っても、ただいまなんて、言いたくない。
これは、引っ越しをする前に、あの子が何度も口にした言葉でした。
あなたと3人で暮らしたあの家で、
出来ることなら、ずっと暮らしていたかったけれど、
先の事を考えての決断。
あなたとの思い出がたくさん詰まったこの町を離れることなく、
あの子の学区も変えずに、
出来るだけ、環境が変わらない場所への引っ越しに、
あの子は、充分に理解してくれていたけれど、
それでも、溢れるあの子の気持ちに、
心が痛かった。
あれは、引っ越し前日の夜、寝る前の事でした。
随分と長い間、あなたに手を合わせていたあの子は、
あなたと、たくさんの話をしているように見えました。
そして、あの子は、ポツリ、ポツリと話をしてくれました。
引っ越したら、ただいまなんて、言いたくない
ずっとそう思っていたけれど、
何故だろう・・・
お父さんと、話が出来た気がするよ。
ただいまって、声を掛けるのは、その家に言うのではなく、
そこにいる家族に言う言葉なんだよ。
住む場所が変わっても、
そこにいる家族は、変わらないんだよ。
そんなふうに、お父さんが教えてくれた気がするんだ。
一緒に頑張ろうね と。
あの日、あの子は、前向きな気持ちで眠りに就くことができたようです。
引っ越しが無事に終わり、
新居での生活が始まりましたが、
こちらでも、いつもと変わらないあの子の「ただいま」の声を聞くことができました。
引っ越し前日の夜、
あなたは、あの子の背中を押してくれたのでしょうか。
前向きに、頑張れるように。
あの子のただいまの場所は、あなたと私のいる場所。
とても、あなたらしいその答えは、
あの子のところに、ちゃんと、届いたようですよ。