あなたへ
あなたを見送ってからの私は、時々、
酷く自分を責めました。
なんでも出来たあなたと、なにもできない私。
もしも、どちらか片方が、
あの日、この世を去らなければならない運命であったのなら、
何故、私ではなかったのかと。
何故、なにも出来ない私が此処に残り、
なんでも出来るあなたが、此処にいないのか。
いつの頃からか、どうにもならない怒りの矛先は、
自分自身へ向き、私は、時々、
酷く自分を責立てていたのでした。
あれは、昨年、冬の日の出来事でした。
あの日の私は、これまでにないくらいに、
酷く自分を責め続け、
あろうことか、あの子の目の前で、過呼吸になってしまいました。
守らなければならないあの子に、心配を掛けてしまったこと、
今、思い出しても、反省しかありません。
あの日、私の気持ちが落ち着くと、
あの子は、話し始めました。
お母さんは、なんで自分を責めるの?
今のこの現状は、お母さんのせいじゃないんだよ
お母さんは、何も悪くないじゃん
苦しかったらね、お父さんのせいにすればいい
勝手に死にやがって!
お父さんのせいで俺たちは、こんなに苦しいんだって、
お父さんを責めればいいんだよ
お父さんは、生きようとしていた
だから、お父さんを責めるのは、おかしいことは分かってる
でもね、上手くは言えないけれど、
それが、今のお父さんの役目なんだって俺は思うんだよ
この言葉は、とても衝撃的な言葉でした。
それなのに、どうしてでしょうか。
あの日のあの子の言葉は、
私の心の奥の奥へと入り込み、
苦しみを、取り除いてくれたのでした。
それは、自分でも気付かなかったところに潜んでいた、
深い苦しみでした。
あれから間も無くに、私は、一度だけ、
酷くあなたを責めました。
何故、怒りの矛先が、あなたに向いてしまうのかが、分からないままに、
今が辛いのは、あなたのせいだと声に出してしまったのです。
それなのに、
それが、今のお父さんの役目だという、あの子の言葉は、
あなたを責めた私を、優しく包んでくれたのでした。
あれからの私は、自分を責めることをしなくなりました。
あんなに自分を責め立てていた私が、
一度たりとも、です。
時々、あの日の出来事を思い出します。
あの日、あの子が私にくれたのは、
劇薬みたいな薬だったのだと思います。
取り扱いを間違えれば、きっと、危険を孕んでいたでしょう。
あの子は、取り扱いを間違えることなく、
正しいタイミングで、私に劇薬を飲ませたのです。
あの頃までの私は、
あなたが此処にいないのは、誰のせいでもないということを、
頭では分かっていても、
心での理解が、出来ていなかったのかも知れません。
あの子がくれた劇薬は、
私の頭と心を、結び付けるような、
不思議な役割を果たしてくれたような気がします。
出来れば、あの日、
あの子の前で、過呼吸になど、なりたくなかった。
あの子に辛い思いをさせてしまったこと、
思い出すだけで、胸が痛みます。
それでも、あの1日がなければ、
私は未だに、自分自身を責めていたのかも知れません。
これは、
いつかは通らなければならなかった道なのでしょうか。
そして、やはり、
一度でも、あなたを責めてしまったこと、
ごめんなさい。
あの日、私を見つめるあなたの顔は、とても優しかった。
私の言葉をただ、受け入れてくれたあなた。
ごめんなさい。
ありがとう。