あなたへ
お父さんの夢を見たよ
凄くリアルだった
朝、起きてきたあの子は、コーヒーを飲みながら目を覚ますと、
見たばかりの夢の中での出来事を、話して聞かせてくれました。
それは、あなたが、此処に帰って来てくれた夢でした。
夢の中、あなたから握手を求められたあの子は、
求められるままに握手をしたそうですが、
それが、とても痛かったのだそうです。
あなたが此処にいてくれた頃、あなたと握手をすると、
手をギュッと掴まれたことは何度あったでしょうか。
そんな時のあなたは、恐らく、ツボを押していたのでしょう。
あなたは手加減していたのでしょうが、
あなたとの握手がとても痛かったのは、
あの子と私の、ちょっと笑ってしまう思い出。
お父さんと握手したらさ
夢の中なのに、凄く痛かったんだよ
あの頃と同じだった
俺、お父さんには勝てないからさ
逃げられなかったよ
19歳になったあの子は、あの夏よりも、随分、逞しく成長しましたが、
あの子にとって、
あなたは、まだまだ勝てる相手では、なさそうですよ。
夢の中でも、
あの頃と変わらぬ強さのあなたを感じることが出来たあの子は、
なんだかとても、嬉しそうでした。
偶然でしょうか。
あの子があなたの夢を見ている頃、私も、あなたの夢を見ていました。
私が見た夢もまた、あなたが、此処に帰って来てくれた夢でした。
夢の中の私は、あなたとあの子が楽しそうに遊んでいる様子を、
とても穏やかな気持ちで眺めていました。
あなたを見送ってからの私たちは、
時々こうして、同じ夜に、あなたの夢を見ます。
私たちが寝静まった頃、あなたは時々、
こっそりと、帰って来てくれているのでしょうか。
お父さんには勝てないよ
私たちの瞳には映らないままに、
あの子のこんな言葉を、すぐ側で、静かに聞きながら、
微笑むあなたを想いました。
あなたは時々こうして、
私たちに、不思議な時間をくれるから、
私たちは、安心して、前へと歩んで行けるのかも知れません。
ふと、不安な気持ちになると、
すぐ側に寄り添ってくれるあなたは、
何処にいても、あの頃のまま、変わらないね。
私たちは、そんなあなたのことが、大好きだよ。