拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

あの子先生との時間

あなたへ

 

コロナウイルスの影響から、外出自粛を心掛けた私たちは、

家の中で、たくさんの時間を過ごしてきました。

そんな中、一度だけ、

あの子が私に教えてくれたのは、不審者対策法でした。

 

もしも、こんなふうに、腕を掴まれたらね

腕をこっちに動かして、振り解くんだよ

そして、足をここに入れて、

こうやって、押さえれば、相手は動けなくなるんだよ

 

何がきっかけで、そうなったのか、

長年学んできた武道の技の数々を披露してくれたあの子。

 

じゃぁ、今度は、お母さんが俺に技をかけてみて

 

そう言って、あの子は、

ひとつひとつ、丁寧に、動きを教えてくれましたが、

私には、とても難しい動きでした。

  

なんとかひとつくらい、出来るようになれればと、

汗だくになりながら、長時間に渡り、練習に励みましたが、

ひとつも様にならないままで、

あの子先生によるお稽古は、終了したのでした。

 

もう駄目!疲れた

万が一、不審者に遭ったら、走って逃げるよ

 

私の、こんな言葉と共に。

 

高校の卒業をきっかけに、

あの子は、武道も卒業の道を選びましたが、

私が知らない間に、

ちゃんと、8年分の知識と技が、身に付いているのだなと、

深く感心した時間でした。

 

あの子の進学先では、先日から、通常授業が始まりました。

日々、忙しそうに、宿題に向き合うあの子を見守りながら、

ふと、思い出した、あの子との何気ない時間。

 

技を習得することは出来なかったけれど、

とても楽しい時間でした。

 

気が付けば、ここに、またひとつ、

私の大切な宝物が増えました。