拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

あなたの遺骨と向き合いながら

あなたへ

 

あの夏からの私は、

あなたの骨壺の入った箱を眺めては、時々、考えていました。

 

此処に、あなたが生きた証があるのなら、

将来、この遺骨を使って、

あなたのクローン人間を作ることが出来るのかな なんて。

 

その声を、その温かさを、

もう一度、感じることが出来たのなら、

どんな気持ちがするのだろう。

 

コーヒーを淹れてあげれば、嬉しそうな顔をして、

あなたの名前を呼べば、返事をくれる。

 

そうして、笑い掛けたのなら、

私がよく知っている笑顔を、こちらに向けてくれるのでしょう。

 

今度は私が、あなたを守ってあげたい。

 

あなたにとてもよく似た人が此処に来てくれたのなら、

この悲しみは、なくなるのかも知れない。

 

あの夏の私は、迷わず、あなたのクローン人間を希望して、

あなたによく似た人と過ごす未来を選んだけれど、

幾度となく、見たことのない未来を思い描きながら、

その気持ちは、少しずつ変化していきました。

 

あなたのその姿のまま、

その温度と、その声を持ったあなたとよく似た人と過ごす日々は、

きっと、最初は、楽しいんだろうなって。

 

でも、きっといつか、私は、気付いてしまうの。

此処にいるのは、

あなたにとてもよく似ているけれど、あなたじゃない人なんだなって。

 

やがて、辿り着いた答えは、

例え、此処に、あなたのクローン人間を作り出すことが出来たとしても、

あなたが亡くならなかったことには、決して、ならないのだということでした。

 

そこにいる彼を、一番に愛してあげることが出来ないのなら、

作り出してはいけない。

 

最近になって、生きたDNAがなければ、

クローンを作ることが出来ないことを知りました。

いえ、

知る勇気を持つことが出来る様になったと、

言った方が正しいのかも知れません。

 

思えば、何の知識もなかった私にとって、

遺骨が此処にあることは、僅かな希望でもあったように思います。

 

いつか、ずっと先の未来、

希望すれば、あなたに逢える日がやって来るのかも知れないなって。

 

知識がない故に持てた、もしもの未来の選択肢に真剣に向き合いながら、

どんなに技術が発達しても、

あなたの代わりは、何処にもいないのだということに、

気が付くことが出来ました。

 

今日の私は、改めて、

骨壺が入った箱を見つめていました。

 

あなたが此処に生きた証は、私の側で、静かに、

あなたを見送ってからの私の成長を、

見守ってくれているようにも感じました。

 

 

 

 

掃除機の思い出

あなたへ

 

はいはい

そこ、退いてください

 

掃除機をかけているにも関わらず、

しぶとく寝転がり続けるあの子の背中に、掃除機をかけました。

これは、最終手段です。

 

あの子がいる場所を避けて、

各部屋に掃除機をかけてから戻ってみても、

まだ同じ姿勢で寝転がっていたあの子。

 

こんなふうに、しぶとく寝転がり続けるあの子を見たのも、

あの子の背中に掃除機をかけたのも、今回が初めてのことでした。

 

あの子と2人で笑いながら、

ふと、あの子が幼かった頃のことを思い出していました。

 

あの頃のあの子の大のお気に入りは、掃除機でした。

 

先ずは、私が手早く掃除機をかけ、

次に、あの子の気が済むまで、掃除機を貸してあげる。

こんなルールで、各部屋へ掃除機をかけていたあの頃の出来事。

 

あの日は、休日で、

何処かへ出掛ける予定もなく、家で過ごしていた日でした。

 

何故なのか、あの日のあなたは、部屋のど真ん中で、

気持ち良さそうに、お昼寝をしていました。

 

掃除機をかけても、いいかな

 

こんな私の問いかけに、あなたは確かに、返事をしてくれました。

いいよって。

 

部屋を順番に回りながら、あなたが眠っている部屋の番になっても、

一向に起きる気配がなかったあなた。

 

あなたがいる場所だけを避けるように掃除機をかけると、

やがて、あの子が掃除機をかける順番になりました。

 

初めは、私を真似て、

あなたがいる場所を避けて、掃除機をかけていたあの子ですが、

やがて、あの子は、

うつ伏せに眠るあなたの背中に、掃除機をかけ始めたのです。

 

それでも起きないあなたのことが、余程、面白かったのでしょう。

あの子は、爆笑しながら、

あなたの背中に、掃除機を掛け続けたのでした。

 

そんな2人の姿が、なんだかとても可笑しくて、

私は、その姿を写真へと納めました。

 

こんな写真、いつ撮ったの?

 

あれから数日が経った頃、あの日の写真を見つけたあなたは、

楽しそうに、

あなたの背中に掃除機をかけるあの子の写真を眺めていましたね。

全然、気付かなかったな なんて、笑いながら。

 

あれから、十数年が経って、

今度は、私があの子の背中に掃除機をかける日が来るだなんて、

思ってもいませんでしたが、

なかなか退いてくれなかったあの子のお陰で、

あの頃の幸せのカケラを、またひとつ、集めることが出来ました。

 

あの頃は、何をするにも、

何倍もの時間が掛かったけれど、

あの子のすることが可笑しくて、

私たちは、いつでも笑っていましたね。

 

 

 

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「つくる」

あなたへ

 

「つくる」の仕事をしていたあなたの姿に憧れて、

そして、

鮮やかに生き続ける、記憶の中のあなたの笑顔を追いかけて、

あの子は自分の歩む道を見つけました。

 

「つくる」は同じでも、つくるものが、少し違う。

 

あの子が今、真っ直ぐに歩んでいる道は、

あなたがしていた仕事とは、少し異なるけれど、

深いところで繋がっているような世界です。

 

あなたが歩んでいた道と、

あの子が選んだ道が、とても深く関係しているからなのでしょう。

 

2年生になり、

あなたがしていた仕事に触れる授業が始まりました。

 

作業服を着ての授業も、

あなたがしていた仕事に触れることが出来たのも、

きっと、全部が、

あの子にとって、楽しい時間だったのでしょう。

 

学校から帰ると早々に、

授業で学んだことを、楽しそうに話して聞かせてくれました。

 

あなたなら、此処に、どんな夢を持ったのだろう。

 

きっと、「つくる」を仕事にしていたあなただからこその、

あなたにしか見ることの出来ない新たな夢を、

此処に、見つけることが出来たのかも知れませんね。

いつか、あの子と2人で、

ひとつの仕事をしてみたいなって。

 

そんな、いつかの夢を語るあなたの声も聞いてみたかったな。

 

楽しそうなあの子の声に耳を傾けながら、

此処で笑うあなたの姿を、そっと、思い浮かべました。

 

いつの頃からか、あの子が、

作業服に強い憧れを持つようになったのは、

きっと、「格好いい」の対象であるあなたが、

いつも着ていたからなのでしょう。

 

お父さんも、こんな服だったね

 

先日、あの子と2人で見た、

二つ折りの携帯電話の中で笑っていた、

あの頃のあなたが着ていた会社指定の作業服と、

学校指定の作業服が、

とてもよく似ていたことも、あの子はとても嬉しそうでした。

 

いつでも、あなたが一番、格好良い。

 

幼い頃から、あなたに憧れては、

なんでも真似をしたがったあの子の瞳は、

少しも変わることなく、

懸命に、あなたを追い続け、

いつかあなたみたいになれる日を夢見て、しっかりと歩んでいます。

 

 

 

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