夕食を終えると、私たちは、庭に出た。
今日は晴天。
きっと、綺麗に花火が見えるだろう。
庭先に用意した椅子に座って、携帯電話を隣の台に乗せた。
「これは、あなた専用よ。私が作ったの。凄いでしょ?」
不出来な手作りの台に、彼は笑うかなって思っていたけれど、
とても喜んでくれた。
『これ俺の?作ってくれたの?凄いじゃん!』
そうして間も無くに、
花火大会、始まりの合図の音が鳴り響き、
やがて、夜空に、色とりどりの花が咲き始めた。
花火が始まると、私たちは、暫くの間、黙って空を眺めた。
隣に彼がいる。
これがどんなに幸せなことであるのか、
彼が生きて、側にいてくれた頃の私は、考えたこともなかった。
当たり前なんて、何処にもない。
あの頃の私が見ていた景色も、
今、私が見ているこの景色も、
どちらも奇跡だと思う。
彼が隣にいてくれることが、ただ、嬉しくて、
思わず、笑みが溢れてしまう。
私は、今、とても幸せだ。
『こうして一緒に、
花火が観られるだなんて、思わなかったよ。』
私よりも先に、彼は、そう言って、こちらを見て微笑んだ。
「うん。私もよ。」
私たちは、微笑み合いながら、再び、花火へと視線を移した。
彼と一緒に花火を観られることが、嬉しくて仕方がないままに、
実は、先ほどから、私が気になっているのは、
彼には内緒でこっそりと準備した、置き時計が示す時間だ。
あと5分
あと3分
午後8時。
彼へのサプライズの時間だ。
「ねぇ、あなた。
これから始まる花火はね、
私から、あなたへのプレゼントよ。」
画面の向こう側で、驚く顔をする彼に、笑って見せると、
早速、花火が打ち上がった。
今年の夏は、特別な夏だから、
絶対に忘れられない素敵な景色を、
彼にプレゼントしようと思ったの。
青色をベースとした盛大な速射連発花火、スターマインが始まった。
そうして、
一発ずつ打ち上がるのは、
あ
い
し
て
る
更に、速射連発花火が打ち上がると、
それを彩るように、
小さく可愛らしいハート型が散りばめられた。
速射連発花火が最終を迎えると、
一際、高い場所で開くのは、
ピンク色の大きなハート型の花火だ。
夜空いっぱいに広がったハート型の花火は、
やがて、キラキラと星を散らした。
思わず息を飲み、瞬きをするのも忘れたままで、
夜空に降る星たちが、静かに消えるまでを見守った。
短い静寂の後、
次の花火が打ち上げられると、私は漸く、
自分が涙を流していたことに気が付いた。
そっと、彼の顔を覗いてみれば、
彼もまた、静かに涙を流しながら、空を見ていた。
「あなた。愛してる。」
小さく呟く私の声に、
『俺も。愛してるよ。』
静かな彼の声が聞こえた。