突然、誰かに肩を叩かれ、驚きながら振り返ると、
そこには、
1年半前に亡くなった彼の父親が立っていた。
私は、驚いて、思わず悲鳴を上げてしまった。
『な、な、何で?お義父さん!
あっ、あの、ご無沙汰しております。』
私はきっと、これまでにしたこともないような顔をしていたのだろう。
驚く私の姿を、お義父さんは、可笑しそうに眺めていた。
『死んだのか。』
漸く、お義父さんは、口を開くと、
腰を抜かしてしまった私の隣へと、ゆっくりと座った。
私が落ち着くのを待って、
お義父さんは、お盆の里帰り中なのだと話してくれた。
よく周りを見渡してみると、
とても混雑しているように見えた大勢の人達の何割かは、
談笑には加わらず、
ただ楽しそうに、家族の様子を見ているだけだった。
恐らく、彼らもまた、お盆の里帰り中なのだろう。
お義父さんと色々な話をしながら、
どうにか彼を笑顔にさせる方法がないかと相談した。
『私は、側にいるよ。
そんなふうに伝える方法は、何かありませんか?』
お義父さんは、黙って私の話を聞いてくれたけれど、
真面目な顔をしながら、変なことを言い出した。
『心霊写真、撮るか?』
『え?なにそれ?
それじゃ、まるで幽霊じゃないですか?』
思わず笑ってしまった私に、お父さんは言った。
『まぁ、生きてる人から見たら、俺たちは、そういうことになるよな。
でも、今の俺たちにとって、
心霊写真は、一番、オーソドックスで、
割と簡単に、この存在を伝えられる方法なんだよ。』
お義父さんは、相変わらず真面目な顔をして、
写真に映る方法を教えてくれた。
『じゃぁ、次の花火が打ち上がったら、やってみようか。』
お義父さんは、
相変わらず、無表情のまま、花火の写真を撮り続ける彼を眺めながら、
花火に紛れて写真に写り込んだらどうかと提案してくれた。
私は、次の花火に写り込もうと決めた。
やり方は、簡単だ。
花火が上がると同時に、高くジャンプして、強く念じる。
自分には、もう重力など関係ないことを意識して、
飛びたい高さまでジャンプすることがコツ、らしい。
そうすれば、花火に紛れて、心霊写真が完成するというわけ。
次の花火が打ち上がり、
私は、空高くにジャンプして、彼に向かって最高の笑顔を向けた。
そうして、私は、
彼が撮った花火の写真に、無事、写り込むことに成功した。
側にいるよ
これは私から、彼へのメッセージ。
『ねえ、あなた。綺麗に撮ってくれた?』
今夜は、彼の実家に泊まることになった。
花火大会が終わり、彼の実家へ着くと、
先ほど撮った花火の写真を1枚ずつ見つめる彼は、
とある写真で手を止めた。
さっき、私が写った写真だ。
『あっ!気付いてくれた?』
彼の隣に座って、一緒に写真を見てみると、そこそこの写り具合だった。
これなら、私だと、気が付いてくれるはず。
写真の写り具合に満足しながら、彼の顔を覗き込んでみると、
彼は、今日初めて、笑顔を見せてくれた。
『ねぇ、あなた。私は、すぐ側にいるよ。
ほら、こんなに近くにいるんだよ。』
私は、微笑む彼を、そっと、抱き締めた。