拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。

あなた

あなたへ


ねぇ あなた


ねぇ あなた


何でもない
ただ、呼んだだけ


私は、あなたと出会って、何度、あなたの名前を呼んだでしょうか。


あなたのこと、こう呼んでもいい?


出会ったばかりの私たちは、そんな初々しい会話がありましたね。


初めて、あなたの名前を呼んだ時は、
恥ずかしくて、小さな声で、名前を呼んだんでした。


あなたと家族になり、一緒に生活するようになると、
あなたの名前を呼ぶことは、
私にとっての、日常となりました。


ねぇ あなた 起きて
あなた おはよう
あなた 行ってらっしゃい
あなた おかえり
あなた おやすみ
ねぇ あなた 聞いて
あのね あなた あの子がね


時々には、


ちょっと!あなた!


なんて、
怒りながら、あなたの名前を呼んだこともありましたっけ。


あの頃の私は、
1日に、何度、あなたの名前を呼んでいたでしょうか。


あなたを見送り、
あなたの名前を口に出すことは、とても少なくなりました。


ふと、声に出して、ただ、あなたの名前を呼んでみたくなったのは、
梅雨明け間近の、とても、暑い日でした。


おもむろに、あなたの前に座って、
あなたの名前を呼んだ私の声は、
自分が思っていたよりも、ずっと小さく、
ちょっと、かすれた声でした。


初めて、あなたの名前を呼んだ時みたいに、
なんだか、ちょっと、恥ずかしかった。


そうして、あれからの私は、
1日に4回、
あなたの名前を口に出して、呼ぶようになりました。


あなた おはよう
あなた 行ってきます
あなた ただいま
あなた おやすみ


そこにはもう、あなたの返事は、聞こえませんが、
あなたの顔を見て、
私が考えた、あなたの特別な呼び名を口に出す時は、
あの頃の私に戻ったみたいで、
胸が温かくて、愛しい気持ちになります。


お互いに名前を呼び合っていた、16年間。


あなたは、何度、私の名前を、呼んでくれたでしょうか。

 

あなたが呼んでくれていた呼び名で、

私を呼んでくれる人は、もう、誰もいませんが、
私を呼ぶ、たくさんのあなたの顔。


今でも、よく覚えています。