あなたへ
先日、スーパーマーケットへ買い物に出掛けた時のことでした。
お菓子売り場の前を通ると、私の耳に届いたのは、
あの子と同じ名前を呼ぶ声でした。
名前を呼ばれたのは、まだ小さな男の子。
高く可愛らしい声で、
名前を呼ぶお父さんの声に返事をしている様子を横目に見ながら、
私は、そこに幼かった頃のあの子の姿を重ね合わせていました。
あの子にも、あんな頃があったなって。
幼かったあの子の姿を思い出してみれば、
今、私が見ている瞬間は、
いつかの私が思い描いた未来なのだと、
こんなことに、ふと気が付いて。
いつかの私は、ずっとずっと先の未来。
もしも、あの夏の運命が違っていたのならと、
おじいちゃんとおばあちゃんになった私たち2人の未来を思い描いていたけれど、
まさかこんなに早くに、
あの頃の私が思い描いた瞬間が、やって来るだなんてね。
不意に聞こえたあの子と同じ名前を呼ぶ声に、
思わず私は思い描きました。
もしも、あの夏の運命が違っていたのなら、
私たちは今、どんな話をしたのかな。
隣に並んだあなたと2人、
どんなあの子の姿を思い出したのだろうって。
ねぇ、あなたは今、
どんなあの子の姿を思い出していますか。
高く可愛らしい声で、あなたを呼ぶあの子の声。
小さな両手で、あなたの大きな手を捕まえて、
あなたを見上げるあの子の姿。
両手を伸ばして、抱っこをせがむあの子の姿。
あの子にも、あんな頃がありましたね。
もしも今、
あなたが此処にいてくれたのなら、
記憶を辿るあなたは、どんな顔で笑ったのだろう。